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「こんなに部活に行きたくないと思ったのは、入部当初の跡部フィーバー以来だ。」

「今回もある意味跡部のせいだけどな。」






008:ゆるやかに、毒 
【滝萩之介】








昼休み、いつもの茶道部部室。
新しい女子マネージャーが入部してから積み重なる心労に愚痴を零すと、が淹れてくれた温かいお茶に口を付けた。
今日は宍戸のリクエストでほうじ茶だ。

日に日にエスカレートしていく『女子マネージャー争奪戦』と言ってもいいほどの猛アプローチ。
レギュラーメンバーなんかはどう見てもスキンシップ過剰だし、彼女もそれをまんざらでも無い様子で受け入れている。


「あれじゃあ、食べられちゃうのも時間の問題だね。」

「おい、もいるんだぞ。女子の前でそんな…」


これでも割とオブラートに包んだつもりだったんだけど、純情な宍戸からしたらそれでも配慮不足に思えたらしい。
窘められて、肩を竦めると、気遣われた本人はけろりとした表情で首を傾げた。


「大丈夫だよ?最近のガールズトークの方が際どいし。」


何でもないことのように言うに、それでも宍戸は食い下がる。


「際どいって言っても女子同士の話なんだからそうでもないだろ?」

「亮はそんなんじゃ将来女の子の実情を目の当たりにして幻滅するよ。」

「…そんなに酷いのか?」



「聞きたい?」



「…あー。俺は聞きたくないから話すなら俺のいないところにしてねー。」

「…俺も遠慮しとく。」


妙な迫力のあるから想像するに、相当な内容のガールズトークが繰り広げられているのだろう。
聞くとこちらもダメージを受けるような気がしたので、即座にお断りすると、宍戸も不穏な空気を感じたのか微妙な顔でそれに続いた。


「うん。けど、女の子がお砂糖とスパイスと素敵な何かでできてる、と思ったら大間違いだからその辺りよろしく。」

「砂糖とスパイス、ってなんだよそれ。」

「マザーグースだったっけ?」

「さすが萩。」


ちなみに確か、男の子は蛙や蝸牛、子犬の尻尾でできてる、とうたわれていた。
…女の子と差がありすぎる。


「けどもガールズトークとかするんだね。」

「…もしかして喧嘩売ってる?」


私もこれでも女の子なんですけど、とこちらを軽く睨みながら言うに、代わりに宍戸がフォローを入れる。


「いや、そういう意味じゃなくて、ただ単に興味なさそうだからだろ。」

「うん。恋愛話で盛り上がってるがイメージできないから。」

「まぁ、確かに聞くの専門だけどね。」


が女の子だってことは俺だって痛いくらいにわかっている。
けれど、どうもとほかの女の子たちを同列に並べられない。
それはが俺にとって特別だから、という理由だけじゃなくて、なんだか根本的に違う存在のような気がするのだ。
試しにが跡部のファンの女の子たちのように、誰かに対して騒いでいる様子を想像してみる。

…駄目だ。想像できない。

しかし、も思春期の女の子なんだし、恋愛に興味がないわけはないと思う。
…それに、密かに片思いしている身としては、探りを入れても不自然じゃないこのタイミングに乗じて少しくらい情報を仕入れたい、という下心もある。

なんでもないような顔をして、核心に迫る。


「イメージ無いとか言っておいてなんだけど興味ないの?」

「今のところ興味ないなぁ。まぁ、それにもし好きな人ができたら、」

「できたら?」

「当たって砕ける。」

「いや、砕けたら駄目だろ。」


即座にツッコミを入れた宍戸の反射神経に感心しつつ、内心で小さく溜息を吐く。
そうだ、はこういう女の子だった。


「前々から思ってたけど、って時々、男前だよね。」

「それは、ありがとう?」

「…さっきは『自分はオンナノコだ』って言ってた癖にこっちは素直に受け取るのかよ。俺、お前のそういう基準はわかんねーよ。」


これからはカッコいい女の子の時代が来ると思うの、と悪戯っぽく言ったを見ながら、まだまだ敵いそうにない、と改めて長期戦を覚悟した。













Reflection


こっそり片思いする滝くんの心境。
彼は今のところ、現状維持で十分だと思っていますが、ヒロインの恋愛観が男前過ぎて、ますます難攻不落だと実感します。
※未読の方はOthersideの002:柔らかな感情を読んでいただけると滝くんの片思い自覚についてお話が繋がります。

REPLAY
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