「学校に行ってみたいな…。」
五歳からホームスクールで学んではいたものの、やはり学校に通ってみたい。
俺の現在の交友関係は両親以外は越前家オンリーである。
懐いてくれているリョーマは可愛いが、そろそろ他の人間とも交流を持ってみたい。
けれども母は困った顔をしている。
そりゃあそうだ。俺の事が心配でわざわざホームスクールにしたのだから、母としてはこのまま家にいて欲しいという心境だろう。
「正直言って、アメリカでは涼丞を学校に通わせることに反対だ。でも、涼丞ももう自分で考えられる年だから、頭ごなしに反対するのは良くないと思ってる。言ってる意味、わかるな?」
「はい。わかります。」
父が俺の意志をちゃんと尊重してくれる人だと言うことも、それでもアメリカでは家から遠く離れた学校に通わせられないことも、わかってる。
やっぱり、まだ無理か。
なんて諦めようと思った時だった。
「だから、もし学校に通いたいのなら日本で通いなさい。」
父は思ってもみなかった選択肢を与えてくれた。
「仕事があるからお父さんとお母さんはまだ日本へは帰れない。あと五年はアメリカで暮らすことになると思う。だから、日本へは涼丞一人で行くことになる。」
「一人で?」
「日本には涼丞のおじいちゃんやおばあちゃんも居るし、伯父さんや従姉弟もいる。だから、一人で暮せとは言わないよ。その中の誰かに頼むことになる。」
最初はただ、学校に行ってみることだけを目的に発言しただけだったが、今は新たに気になることができた。
『いとこ』の存在。
その『いとこ』が原作キャラだと言う可能性は高い。
けれども、両親から五年も離れると言うのは俺の決断を渋らせる。
この六年ですっかり馴染んだ家族はひどく居心地が良いのだ。
「お母さんのことは気にしないで、涼丞が行きたいのなら行ってもいいわ。休みの時に帰って来てくれれば会えるし、会いたくなったらお母さんも会いに行くわ。」
そう言って母は優しく俺の背中を押してくれる。
何事も経験が大事。
決して今生の別れとなるわけじゃないんだから。
そうして、俺は日本の小学校に入学することになった。
「着いたよ、涼丞。」
両親に付き添ってもらってこれからお世話になる家までやってきた。
母の兄にあたる人の家らしく、そこに従姉弟がいるらしい。
門の前まで来て、俺は相手が誰だかわかってしまった。
(千石って、たぶんあの山吹の千石清純だな。)
おもったよりも冷静でいられた自分にびっくりだ。
最初に主人公に会ったのがよかったのかもしれない。
呼び鈴を鳴らして出て来たのは中学生くらいの女の子だった。
「もしかして、藤堂さんですか?」
「そうだよ。理香子ちゃんかな?」
「はい。そうぞ上がって下さい。」
なかなかしっかりした子だ。
忘れないように靴をきちんと脱いで揃える。
日本は土足禁止だからな。
「初めまして。藤堂涼丞です。お世話になります。」
リビングに通され、しっかりと挨拶をする。
第一印象が肝心だ。
「会うのは初めてだね。君の伯父に当たる千石友哉だよ。二人とも挨拶しなさい。」
「理佳子です。リカでいいからね。来年から中学生。お姉ちゃんだと思って頼ってね。」
「俺は清純!よろしくね!」
「理佳ちゃんに清純だね。こちらこそよろしく。」
なんだか歓迎ムードみたいで良かった。
伯母さんは買い物に行っていて、今は留守らしい。
少しだけ話したあと、無理に予定を空けてここまで送ってくれた父はすぐにアメリカへ。
「涼丞、しばらく会えないけど頑張りなさい。」
「はい。今日は忙しいのに送ってくれてありがとう。アメリカまで気をつけて。」
「ああ。夏休みには一度帰って来なさい。」
寂しくないと言えば嘘になるけれど、自分で決めたことだ。
日本で頑張って、両親に恥じないような子どもになろう、なんて一端の孝行息子みたいな事を考えた。
父が帰ったあとは質問攻め。
二人とも人見知りは全くしないタイプらしい。
特に清純の攻撃は、夜眠るまで続いた。
「涼丞も春から山吹第一小なんでしょ?」
「清純と一緒に通うことになるな。」
「すっごく楽しみだね!」
原作通り、明るいキャラのようだ。
さすがに髪はまだ黒だけど。
俺は原作の千石清純のテニスに対する姿勢が好きだった。
敗者を貶めるようなことはせず、勝者は素直に認める。
負けても次の為に努力できる。
だが、あの女の子に弱い癖だけはいただけない。
せっかく従兄になったわけだし、俺が清純に紳士道を叩きこんでやる。
「がんばろうな、清純。」
「うん?」
Reflection
私の贔屓で涼丞の従弟はキヨです。
涼丞はキヨを紳士にしようとしています。
リョーマはアメリカで拗ねていることでしょう。
こちらはヒロインサイドよりも大分駆け足で進みます。
REPLAY
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