捨てずにしまいこむ。










いきなり主人公とは、これ如何に。







003:廻り始めた世界











気が付いたら、俺は優しそうな美女と頭の良さそうな眼鏡青年に覗きこまれていました。


ああ、無事に転生したんだな。まずは状況把握だ、なんて意気込んではみたものの。







(一向になにもわかんないんだけど…。)






テレビから、此処がアメリカだと言う事はわかった。


けれども、それ以外に情報源がない。


一体なんの世界なのか。


結局、考えても仕方が無い。


それに、俺が知らないだけで、父か母が物語の登場人物な可能性だってあるのだ。


こうして割り切った俺はすくすくと成長して、現在五歳になりました。







「リョウちゃん。今日はパパのお友達の家に遊びに行くからね。」










ようやく普通に喋ってもおかしくない年齢に到達した俺は、全く外に出なかった。


狭い日本と違って迷子になったら一人で家に帰れないし、平和な日本に比べて犯罪率も高い。


ようするに、知的好奇心よりも身の安全を優先したわけである。


そんな引きこもりがちな俺を心配してのか、今日は父の大学時代の後輩の子どもと引き合わせることにしたらしい。


両親に心配をかけて少し申し訳ない気分に浸っていた俺は、今日が大きな転機になるなんてその時は思ってもみなかった。







「久しぶりだね、南次郎。」




「先輩こそ。お元気でしたか?」










いま父とにこやかに挨拶を交わしているこの人。


なんだかすっごく見覚えがあるんですけど。







「涼丞、ご挨拶しなさい。」




「はじめまして。藤堂涼丞です。」










そう言いながら、もう一度目の前の男をじっくりと観察してみる。


そうして、フルネームを名乗られた時、俺は全てを理解した。







「しっかりした子だなぁ。先輩に似て賢そうだ。俺は越前南次郎。よろしくな。」










俺が来たのはテニスの王子様の世界らしい。


しかもこの調子だと、今日会うことになっているのはリョーマだ。


あれ、なんかいきなり過ぎるんじゃねぇ?


まだ親戚にいるはずの登場人物にも会ってないのにいきなり主人公?







「んで、あっちの物陰から様子を窺っているのが息子のリョーマだ。リョーマ、こっち来い。」










南次郎に呼ばれて、恐る恐ると行った様子で此方へ来た男の子には確かにあの『越前リョーマ』の面影があった。


俺の肩くらいしか無い身長で見上げて来るので、首がしんどいだろうとしゃがんで目線を合わせてやる。







「はじめまして、リョーマ。涼丞だ。よろしくな。」










きょとん、とこちらを見ているリョーマはすごく可愛い。


なんか、猫を相手にしているような。


思わず頭を撫でると、一瞬驚いた顔をして、それからすぐに花が綻ぶような笑顔をみせた。







「めっずらしーな。コイツ、めちゃくちゃ人見知りなのに。」




「リョウ!行こう!」










大きな猫目をキラキラさせてリョーマは俺の手を引っ張って、リビングに連れて行かれたかと思うと一日中離れなかった。


その間、絵本を読まされたり、パズルを一緒に解いたり、ブロックで家を作ったり。


結局四時間程遊び相手をして、夕食前に帰ることになったのだが。







「やー!!」




「リョーマ、涼丞くんが困るでしょ?離しなさい。」




「やー!遊ぶ!!」










俺、めちゃめちゃ懐かれた。


今も涙と鼻水で顔がぐっちゃぐちゃになったリョーマに服を掴まれて、帰るに帰れない。


両親よ、微笑ましそうに見ていないで助けてくれ。


結局南次郎がリョーマを無理矢理はがしてくれたのだが、今度は警報機並みの音量で泣きはじめる。







「リョーマ、今日は帰るけど、また一緒に遊ぼうな。今度はうちにおいで。」









だから泣きやめ、と言い聞かせながら手を握ってやる。


こんくらいの子でも、ちゃんと言い聞かせればわかるはずだ。


俺の目を窺うように見返してきたリョーマは、ひとつ頷くと小指を出してきた。


だから、それに自分の小指を絡めてやる。







「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのます!」










歌と言うより宣言に近いようなメロディの無いゆびきりをさせられて、俺はやっと帰路についた。







「仲良くなれて、よかったわね。」




「今日は賢かったね。ちゃんと挨拶もできたし、小さい子に合わせて遊んであげられたね。」




「…うん。」










両親は、こうやって俺が何かしたら必ず褒めてくれる。


その度、俺は愛されているんだな、なんて幸せな気分になる。


前世では、正直に言って俺は人生を無駄に過ごしたんじゃないかと今では思う。


もともと、努力しなくても大抵の事はこなせたし、容姿も悪くは無かったから恋愛もそれなりにしてきた。


けれど、それらは思い返せば酷く薄っぺらいものだったように思う。


例え漫画の世界でも、俺はこの暖かい家族がいる今を愛せる。







(どうせなら、見れるだけ登場人物を見てみたいな。)










もう俺は此方の世界に組み込まれたのだから、自由に生きさせてもらう。


ハンデ付きで始まった人生、せっかくなら利用して楽しく過ごしてやろうじゃないか。




















Reflection



涼丞はヒロインと違って前世にあまり未練がありません。

良い意味でも悪い意味でも自分本位。

過去を振り返らない強さがある子です。

(悪く言うとスレているとも言う。)

次は従弟と出会わせます。



REPLAY
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