転生先は選べませんが、設定なら少し変えられます。
容姿や能力に関する補正も少し効きますが、どうしますか?
『死に方が可哀相だったから』なんて理由で転生チケットを手に入れた俺は、瞬時に頭の中で作戦を練った。
カペラの行動の端々から気になることがあったからだ。
「俺以外の奴はどんな条件を設定したんだ?」
カペラは、『なぜそれを知っている!』とでも言いたげな顔をしているが、誰だってわかる。
死に方が可哀相だったのは『藤堂さんたち』と複数形だったし、先ほどから読み上げているファイルの表紙にはデカデカと、
恐らくカペラが書いたのだろう丸っこい字で『被検体β』と記されている。
『被検体β』が居るなら『被検体α』もいるはずだ。γもいるのかも知れないけど。
このまま口が軽そう(俺認定)なカペラから色々と聞き出してやろうと思った時。
「全く。気を抜き過ぎですよ。カペラくん。」
唐突に、それはそれは綺麗な男が現れた。
「ミラさん!」
「リゲルさんは一人で大丈夫だ、と持ち前の楽観思考で仰っていたものの、私としては貴方一人に任せるのはどうにも先行きが不安でして。
やはり見に来て正解でした。案の定やらかして下さったようですね。」
「要するに、私の心配をしてくださったんですね!」
「違います。話を聞いていましたか。」
ミラと呼ばれた男はカペラをバッサリ切り捨てると、俺の方に向き直った。
白銀の髪がさらりと揺れる。
「本来なら被検体には明かさない情報ですが、今回はこちらの…と言うよりカペラくんのミスなので、差し支えの無い所までお答えします。
まず、他の被検体ですが、確かに存在します。しかし、数と転生先を具体的にお教えすることは出来かねます。
二つ目に、我々がαと呼んでいる被検体が出した条件についてですが、『容姿と名前を生前と同じものにする』と言うもの以外はお答えできません。」
「危なかった。私、全部言うところでした。そうですよね、あんまり言っちゃうともし出会ったときにわかっちゃいますもんね!!。」
次の瞬間、ミラはカペラの頭を容赦なく叩いた。
でも、俺は加害者のミラに同情する。
何処かに穴でも空いてるんじゃないか、って勢いでカペラは情報を漏らしていく。
とりあえず。
「αと俺は同じところに転生するわけだ。」
ミラは大きく溜息を吐いた。
彼は絶対苦労性だ。
美しい白銀の髪が実は全部白髪でした、って言われても今なら納得できる。
「とにかく、これ以上カペラくんに不始末を増やされたくないので、藤堂さんにはすぐに手続きを行って転生して頂きます。
手続きはすべて私が行います。カペラくんは邪魔になるので黙ってお茶でも飲んでいて下さい。」
「はーい!やっぱりミラさんは優しいですね!」
なんとも空気の読めない子だ。
いそいそと新しいクッキー缶からテープを剥がして頬張り始めた。
それを完全に無視して、ミラは手続きの説明をしていく。
きっと、慣れているんだろう。
つくづく気の毒である。
「記憶を持ったまま転生するって言ってましたよね?」
「ええ。登場人物と血縁関係を持って生れて頂くことと、前世の記憶は消さずに持ち続けて頂くことは必要条件です。」
「とりあえず、俺も容姿と名前は前世と同じにしてください。」
「イケメンですもんねぇー。αさんも…」
カペラの口はミラによって即効クッキーで塞がれた。
また何か漏らす所だったんだろう。
それも流れからしてαの容姿の特徴を。
カペラの言い方からきっとαの容姿良い方なんだろうけど。
それにしても懲りない子だ。
「承知しました。他にご要望はありますか?」
「こう見えて、帰国子女なんで、英語喋れても怪しくないような環境にしてください。クイーンズイングリッシュ。」
日本で普通に生まれ育った子がネイティヴ発音で英語喋ったら不自然すぎる。
一度身に付いたものをできないように装うのは難しいし。
「わかりました。手配します。」
結局その後二度ほど、ミラがカペラの口にクッキーを突っ込んだが、なんとか契約を結んだ。
「で、俺は一体どこに転生するんですか?」
「それは内緒ですよ。」
「そうです!サプライズです!いってらっしゃい!」
取り敢えず、命の危機に晒されるような世界では無いらしいのでまあ、いい。
今度は可哀相な死に方をしないようにしよう。
静かに遠のく意識の中で、俺はしっかり決意を固めた。
Reflection
涼丞もやっと転生です。
こちらはカペラちゃんパワーでヒロインの情報をたくさんゲットしています。
ヒロインは涼丞の存在すら知らない。
REPLAY
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