「夏休みまでは学校に慣れよう、というのに精一杯で、部活とか勉強とか委員会とか、やらなければならないことをやっていたら、いつの間にか大会が終わっていました。ほんと、あっという間だった。」
ゆるやかな坂道。
街灯のぼんやりとした光りに照らされた鳳くんの顔は、いつもより少し幼く見える。
「この前、新レギュラーが決まったんです。三年生が引退して、組み直されたレギュラーメンバーは全員、二年生でした。」
鳳くんの蹴った小石がカラカラと坂を転がっていく。
「そのことが不満なわけじゃないんです。全員、とても強いプレイヤーだし、どんなチームになるのかわくわくしているんです。けど、そこで自分に目を向けたら、怖くなったんです。」
追いついた小石を再び蹴る。
「僕が入学したときにはもう既に二年生の先輩たちは強かった。けれど、あと半年で僕は出会った頃の先輩たちくらい強くなれているのだろうか、と考えると危機感を持ってしまって。」
気付くと坂は終わっていた。
歩道橋を前にして自然と互いの足が止まる。
「スクールではいつも褒められました。バランスが良い、基本が出来ている。でも、逆に言うと無難なだけなんです。テニスだけじゃない。僕はずっと、そうやって生きてきた。平均よりも少し上のラインを平行に走ってきた。でも、もうそれは嫌なんです。」
背の高い彼がひどく小さく見える。
「もっと強くなりたい。でも、どうすればいいのかわからない。」
スランプ。
そう言ってしまえば簡単だ。
けれども、彼の抱えている悩みはきっかけがテニスだっただけで、もっと根が深いものだった。
「がむしゃらに練習することで考えることから逃げたんです。」
情けないですよね、と言った鳳くんは頼りなく笑った。
階段を上って、いつもは見上げる位置にある端正な顔と目線を合わせる。
頼りなく揺れている瞳を見つめて、しっかりとした両肩に手のひらをのせた。
「鳳くんは考えすぎなんだよ。前しか見えてない。目標を高く持つのは良いことだけれど、上ばかり見ていたら転んでしまう。」
どうして私の周りはこうも負けず嫌いが多いのだろうか。
タイプの違う負けず嫌いばかり集めた見本市が開けそうだ。
「時々は後ろも振り返ってみなきゃ。この半年、全く何も進歩がなかったわけじゃないでしょ?努力して、成長した自分を認めて、褒めてあげないと。」
客観的な視点が必要なら、私を頼ってくれてもいいのよ?と、にっこり微笑んで見せると、ようやくいつもの笑顔に戻った。
「頑張ったら、褒めてくれますか?」
「勿論。後輩の成長を見守るのは先輩の楽しみのひとつですから。でも、もう無理はしないでね。」
「…はい。心配かけてすみません。」
そう言って鳳くんは罰が悪そうに苦笑した。
「でもね、鳳くんは凄いよ。」
綺麗な銀髪に指を通すように、頭を撫でる。
「ひたむきに努力して、できるようになるまで、完璧に自分のものにするまで諦めないでしょう?そういうところ、尊敬してるの。」
同じ委員会の先輩として彼を半年見てきたけれど、本当に努力家だ。
責任感もしっかり持っていて、とても仕事がやりやすかった。
それに、自分の悪いところは素直に認め、他人の良いところは正当に評価できる子だ。
そのまっすぐな性格は私には眩しかった。
「だから、もっと自信持って?」
「…あんまり褒めると、調子に乗りますよ。」
「そのくらいでいいのよ。部長みたいになったら駄目だけれど。」
「うわー!先輩、結構言いますね!」
「鳳くんのことは信用しているので。」
「しかも狡い!」
逆転していた身長差が元に戻って、銀色がきらきら輝いていた。
Reflection
弱っている長太郎はきっと可愛いに違いない。
だからスキンシップ過剰になってしまっても仕方が無いと思うんです…。
ヒロインの中で鳳くんは大型犬のイメージです。
ゴールデンレトリーバー。
REPLAY
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