いくらしっかりしているとは言え、所詮中学生。
夏休みが明けると休む間もなく行事、行事の毎日。
文化活動委員なるものに所属している私は正直言って行事を楽しむ余裕など皆無。
けれど、世間一般では学校行事すなわち恋愛イベントがつきものなようで。
「私たち委員が大変な思いをしている間に、皆様半年遅れの春を満喫していたようで何より。」
「どうせみんなすぐ別れるけどね。」
行事が一通り終わって、周りを見渡すとカップルだらけでした。
別に恋愛がしたいわけでは無いのだけれど、こういう雰囲気には二次災害があるわけです。
「周りがカップルだらけ、いいなぁ、自分も彼女ほしいな、なら彼氏いないよな、よし、あいつで良いか。みたいな感じで告白される身にもなって下さい。」
「俺みたいに本命と付き合えばいいのに。毎日が幸せなうえに虫除けにもなって一石二鳥。」
「黒木君みたいに本命がいたら、の話でしょ。」
「いないの?」
「いない。」
ただでさえ精神年齢が倍以上違う上に、前世でも恋愛経験皆無な私だ。
そんなもの、いるわけが無かろう。
その上、お試しで付き合う云々というのは嫌だ、と思うほどには恋愛に夢を見ている。
「そりゃあ、女の子ですから告白されるとうれしい気持ちも無くは無いよ?けど、知り合いならともかく、あまり接点がない人に告白されても。悪いけど信用できない。」
「けっぺきしょー。」
「いいんです。」
だいたい、最近の子は早熟過ぎる。
わたし、生まれる時代を間違ったのかもしれない。
「それに、今は他に気になることがあるの。」
「鳳のこと?」
「意外。黒木君、気付いてたんだ。」
「そりゃ、あんなに無茶な練習をしてたら気付く。一応、同じ練習グループだし。」
ここ数日、鳳くんの様子がおかしい。
まるで何かに取り憑かれたかの如く、テニス漬け。
もともと、氷帝テニス部員たちは練習熱心だけれど、今の鳳くんは見ていて危なっかしい。
最初は行事が終わって委員会活動から解放された、その反動でテニスに打ち込んでいるのかと思っていたけれど、どうやら違うらしい。
「で?その様子のおかしい鳳をはどうしたいの?」
「どうしたいか、って言われてもなぁ。萩は気付いてて何も言わないことにしたみたいだし、亮は気付いてるかどうかも怪しい。私よりも鳳くんに近い二人が動かないのに私が動くのは少し違うかなぁ、と。」
気になって、それとなく萩に言ってはみたのだ。
けれど、自己管理も能力のうちだよ、と言われてしまって何も言い返せなかった。
「鳳もそんなに馬鹿じゃないから、いずれ落ち着くとは思うけど。心配ならお節介してもいいんじゃない?一応、委員会の先輩なんだから。」
なんだかんだで黒木くんはいつも私の話をきちんと聞いて、相談に乗ってくれる。
このまま続くようなら、一度鳳くんと話してみよう、と決めた。
私が悩んでいても仕方がないか、と黒木くんに笑いかけたら、小さく頷いてくれた。
「うん。完璧!ほんと助かった!ありがとう!」
「いいえ。委員長も、お疲れ様です。」
怒涛の行事の報告書を仕上げて提出すると、外は暗くなっていた。
遅くなると連絡は入れたので大丈夫だけれど、暗くなるまで気付かなかった自分の集中力に感心する。
私、ちょっと凄い。
「本当は送ってあげたいんだけど、僕も仕事が残ってるんだよね…。もう暗いから気を付けて帰るんだよ。」
「はい。気を付けて帰ります。」
委員長のデスクには各クラスの報告書に加えて部や委員会からの報告書も積まれていて、あれを全て読んでチェックするのはとても大変だろう。
それでも嫌な顔ひとつせずに職務を全うする委員長を尊敬する。
跡部景吾の存在に隠れてしまいがちだが、氷帝には委員長のような優秀な人材もたくさんいるのだ。
「お疲れさまー。」
「お疲れ様です。」
夜の学校もなかなかに雰囲気があって良いものだ、などと暢気に考えながら校舎を出て、門へ向かう。
さすがに練習熱心な運動部ももうみんな帰宅したようで、広いグラウンドはがらんとしている。
けれども。
…先程から聞こえる、パコン、パコンと言う音には物凄く聞き覚えがある。
急遽方向転換して、普段は人で埋まるグリーンへ向かう。
予想は確信に変わって、ここ数ヶ月ですっかり見慣れた後ろ姿。
「こんばんは、鳳くん。」
制服のまま、壁打ちをしていた背中が面白いくらいにびくりと跳ねた。
振り返った鳳くんは一瞬、驚いた顔をした後に、すぐに顔を顰めた。
「こんばんは、先輩。しかし、駄目ですよ。女性がこんなに遅くまで残っていては。」
「その言葉、鳳くんにもそのまま返すよ。」
そう返すと、鳳くんは言葉に詰まったのかボールを握って苦笑した。
やはり黒木くんにああは言ったものの、私は彼が心配で仕方が無いのだ。
「女性に夜道を一人で歩かせたくない紳士な後輩に、無茶な練習をしている後輩が心配で仕方がない先輩から妥協案があるんだけど。」
折角できた可愛い後輩の心配をして何が悪い。
ここまで来たら開き直ってお節介を焼いてしまおうと決めた。
「話を遮ってしまって申し訳ないのですが、その前に僕から一つ、お願いがあるんです。」
そう言って顔を上げた鳳くんは、握りしめていたボールをコートに置いて、私の前まで歩み寄る。
月明かりにキラキラと光る銀髪が綺麗だ。
「先輩をご自宅までエスコートさせていただけませんか?」
ご迷惑じゃなければ、歩きながら相談に乗って欲しいです、と小さく付け加えられた声に勿論と返して、目の前に差し出された手のひらに自分の手をそっと重ねた。
Reflection
ぴったり一年ぶりの更新です。
実はこれ一話書くまでに一ヶ月かかったとか…。
唯でさえ読みにくい文章だったのに、ブランクで更にややこしくなっていないか心配です。
スランプは脱しましたが、リハビリが必要な模様です…。
精進します!
そして久々に書いたらなんか長太郎がイケメンになりすぎた気がします。
いいのかこれ。
REPLAY
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