些細な変化は根底の大きな変化を示唆している。














最初からわかっていたはずなんだけど、目の当たりにするとやっぱり悩む。










018:山吹色の黄金週間










今年もやって来ました。春の大型連休。


大阪へ帰らないか、と言う話が持ち上がったものの。







「ごめん。俺、ゴールデンウィーク中は基本、部活やわ。」








予想はしていたことだけど、中学生になった光は四天宝寺のテニス部に入部した。


もともと身体能力が高かったからか、入部1ヶ月の新入生にも関わらず、一軍メンバー対象の強化合宿に参加させて貰えることになったらしい。








「残念。光がおらんのやったら今回、私は留守番しとくことにするわ。」








おばさんたちには春休みに会ったばかりだし、たまには一人で過ごすのも悪くない。








「合宿とか、ほんまうっといわ。なんで俺まで参加せなあかんねん。学校で十分やろ。」








不機嫌そうなセリフとは裏腹に、あまのじゃくな従弟の声は、ほんの少し嬉しそうな響きを含んでいて。








「頑張ってきて。テニスしてる光、めっちゃ好きやから。」




「あほか。こそ、有意義に過ごしや。」




「そこまで言うなら毎日、私のゴールデンウィーク日記、送ったるわ。写真付きで。」




「いらんわ。何の嫌がらせやねん。」




















とは言ったものの、白紙のままの大型連休。


両親は大阪へ帰るので家にひとり。


せっかくだから、遠くの水族館とか美術館とかに行ってみようかな、なんて考えていたわけですが。








ちゃん、4日って暇よね?」








一応疑問系のはずなのに、断定にしか聞こえない口調と笑顔の那智先輩。


今日もやっぱりお綺麗です。








「山吹の学園祭があるの。友達が通っているんだけど、今年はステージ発表があるから案内は無理らしくて。一人じゃ寂しいから一緒に行ってくれない?」








完璧な角度で小首を傾げる先輩。


確信犯だとわかっていても、やっぱり美人。






ちょうど暇だし、原作でも山吹はあまり氷帝や四天宝寺と関わっていない。


つまり安全圏。


約一名、恐ろしい人物がいたような気もするけれど、学園祭なんかに参加しないだろう


だったら、楽しんで来ましょう、と軽い気持ちで了承したものの。








「…すごい人ですね。」




「不思議ね。去年はこんなに混んでいなかったのだけれど。」








明らかに混雑の原因を知っている様子なのに、とぼける那智先輩。


…絶対にわたしをからかいたいだけだな。


もう、那智先輩にからかわれるのは仕方がないことだと諦めているので、黙ってその美しい背中に着いていく。


グラウンドには様々な屋台や意図のわからないオブジェ、派手な衣装を身に纏った生徒などで賑わっていて、氷帝とはまた違った文化祭らしさを演出している。


と、文化委員としての視点になりながら、辺りを見回してみると、一点に人だかり。


・・・一体何があるのだろう。那智先輩に行って、少し見に行こうか、と普段は考えられないようなミーハーな思考に飛んだのは、私もこの空気に触発されている証拠だろう。








「あの、那智先ぱ・・・」




「那智!来てくれたんだ。」




「ハル。久しぶり。」




「ちょっと見ない間にまた綺麗になったね。」




「ありがとう。」




「ふふふ。そうやって謙遜しないところが那智らしいな。」








ちょうど私が声を掛けようとしたタイミングで現れたのは、黒いスーツに身を包んだ生徒。


話の流れから、多分この人が那智先輩の言っていた友達なんだろう。


まさか男の人だとは思わなかったけど。








「ところで、その後ろにいる女の子は誰かな?綺麗な黒髪と麗しい姿から、『噂の後輩ちゃん』とお見受けするけれど?」








物凄く気障だ。気障なんだけれど、あまりにも似合いすぎていて違和感が全くない。


一体どこの王子様なんだ、この人。


驚きながらも顔には出さず、一歩前へ出て自己紹介をする。








「初めまして。氷帝学園中等部二年、と申します。那智先輩には茶道部でお世話になっています。」




「可愛いでしょ?自慢の後輩よ。」








那智先輩に後ろからきゅっと抱き締められる。


最初のうちは美人にこんなことをされると同性と言えどもドキドキしたが、今となってはもう何も思わない。


慣れとは恐ろしいものです。








「うん。今すぐ攫って帰りたいくらいに可愛らしい。ところで那智、自己紹介をしたいから彼女を解放してくれないかな。」




「あら、このままでも大丈夫よ?」




「・・・はぁ。わかった。初めましてお嬢さん。私は山吹中学校三年、三井寺春香。そこの那智とは将来は姉妹になる予定だよ。よろしく。」








もう、どこから驚けばよいのかわからない。


咄嗟にツッコミが入れられないとか、関西人失格だ。








「ハルがいきなりいろいろ言うからちゃんが固まっちゃったでしょ。びっくりしたわよね、まさか女だったなんて。」




「いや、将来姉妹になる、もなかなかにインパクトが強いはずだよ?」










「正直、両方に驚いています。」








詳しい説明を聞けば、ハルさん(そう呼ぶように言われた。)は演劇部の部長で、慢性的に男子部員が不足しているため、 趣味も兼ねて常に男役をしていたら、いつのまにか普段の所作までそれらしくなってしまったらしい。

将来は姉妹になる、と言うのは那智先輩とハルさんのお兄さんが婚約関係にあるからで、三井寺家では那智先輩の嫁入りを待ち望んでいるそうです。


・・・詳しく聞いてもツッコミどころが満載。キャパオーバーです、先輩。








「とにかく、私の可愛い後輩と将来の妹を引き合わせられたから、今日は満足。ちゃん、どこか見たいところある? ハルと一緒に行けば、大抵のところは優先して入れてもらえるわよ?なんてったって王子様だからね、ハルは。・・・ハル?」








見ると、不機嫌な顔で一点を見つめるハルさん。


いや、もはや『睨む』と言った方が相応しい目つきになってます。


一体どうしたのか、と視線を追うと、先ほど気になっていた人だかり。








「どうしたの?そんなに睨んじゃって。あっちに何かあるの?」








心配はんぶん、興味はんぶん、と言った様子で話しかける那智先輩。


ハルさんは一度大きな溜息を落とすと、心底気に入らない、といった表情で話し始めた。








「二年に千石清純っていう男子生徒がいるんだけど、そいつが気に入らない。多分、あの人だかりの中心にいると思う。」




「ハルがそこまで嫌うなんて、そんなに嫌な子なの?」




「いや、むしろ完璧。顔も良いし、スポーツもできる。フェミニストで女性には親切だし、男子からの人望もある。 成績だって学年トップをキープしてる。嫌味なところも無いし、他校にもたくさんファンがいる。まさに王子様みたいなやつなんだ。」




「なるほどね。女の子を取られちゃったっみたいで面白くないんだ。」




「…我ながら子どもっぽいと思ってる。ただの嫉妬だよ。」








その後、劇の準備があるから、と言ってハルさんは急いで体育館へ向って行った。


取り敢えず、劇が始まるまで何処かでゆっくり休憩しよう、と言った那智先輩に連れられて、学校の外の喫茶店へ入ることに。








「ごめんね、ちょっとお化粧室に言って来るわ。」








ひとりになったテーブルで、もう一度先ほどのハルさんの台詞を思い返してみる。


私の記憶の中の千石清純は女好きでチャラチャラしたイメージだ。


他校にもファンがいるほど女の子にモテるのに、誰とも付き合わない、なんてそんなキャラじゃなかった。


これが、NOVAの言っていた『世界の意志』ってやつだろうか。


『私』と言う異分子のせいでズレた部分を修正するために、世界が千石清純のキャラを調整した?


― 考えてもわからない。


けれど、私は私の人生をこの世界で生きていくと決めた。


それに、考えようによっては千石清純の変化はプラスの変化と言える。


きっとこの先こんな変化には何度も出くわす筈だ。


怖くないと言えば嘘になるが、あの時NOVAで自分が選択したことを後悔はしない。








「なに難しい顔してるの?」




「少し、考え事をしていました。」




「どんなこと?」




「人生について、ですかね?」




「大いに悩みなさい。場合によったら相談にのってあげる。」




「ありがとうございます。」










もうこの世界には大切なものがたくさんあるのだから。
























Reflection




長らくの放置、すみません。


そして久々の更新にも関わらずキャラとの絡みが最初の光との電話のみ。


しかし、やっと涼丞サイドとうっすら繋げることが出来ました。


ハルさんは書いていて楽しかったです。ヅカ!笑


また登場させたいなぁ。




REPLAY
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