この気もちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが
大地からあしのうらを伝わって
ぼくの腹へ胸へそうしてのどへ
声にならないさけびとなってこみあげる
この気もちはなんだろう
谷川俊太郎
早いもので氷帝学園で二度目の春。
今年は亮と同じクラスです。
「いいなぁ。俺だけクラス離れちゃった。」
G組の私たちに対して萩はF組。
一人だけ離れたのが随分とご不満らしい。
「隣のクラスだし、昼は一緒に食うからいつでも会えるだろうが。」
「全員バラバラだったら許せるんだけど、宍戸とが一緒のクラスで俺だけ違う、ってのが気に入らない。」
「お前、前々から思ってたけどいろいろとオープンだな。」
「日本人は感情を隠し過ぎなんだよ。もっと解放されるべきだと俺は常々思ってる。」
「いや、お前も日本人だろ。」
萩と亮の漫才のような掛け合いがおもしろい。
最初はお互い遠慮しがちだったのが嘘のように、この一年で格段に仲良くなった。
テニスでも良いライバル同士らしく、男の子同士の友情が築かれているのを見て、少し寂しくなる時があるのも事実。
「二人とも、日本人の国民性に関する考察なら後にして。とりあえず新しい教室に移動しよう。」
「は俺とクラスが離れて寂しいとは思ってくれないの?」
「亮が言った通り、これからもお昼は一緒に食べるんでしょ?会えなくなるわけじゃないし。それともこの一年で築き上げた私たちの関係は、萩にとってはクラスが離れたくらいで変わってしまうような薄っぺらいものだったの?」
意地悪には意地悪で返させて頂きます。
那智先輩の真似をして、唇だけで笑って告げる。
「敵わないなぁ。完全敗北宣言。」
「完封勝利。」
「…俺、時々お前らにはついていけねぇよ。」
新しい担任はとてもキビキビした人で、なかなか好印象。
今日決められることは決めちゃいましょう、と早速席替えがなされました。
「あ、球技大会のときの。」
「黒木くん、だったよね?同じクラスだったんだ。よろしくね。」
世間は狭い。
隣人は球技大会で淡白なボケを披露してくれた黒木くんだった。
「黒木くんは委員会、何に入るつもり?」
「なんでもいい。でも、できるだけ楽して生きたい。」
「なんか、発言がダメ人間だよ。」
「自分の心に素直になっただけ。素直さは美徳だって幼稚舎のときの先生が言ってたような気がしないでもない。」
「うん、物凄く曖昧な言い訳だね。」
「曖昧なのは日本人の国民性だから仕方が無い。」
…やっぱりおもしろいぞ、黒木くん。
今まで周りにいなかったタイプだから余計に新鮮。
新しいクラスでも、楽しくやって行けそうです。
結局、去年に引き続き文化活動委員になりました。
今日がその第一回目の委員会なのですが。
うん、なんか激しく心当たりのある銀髪長身の男の子がいます。
しかも、一年G組の席に着いているということは、私がサポートしてあげなければならない後輩、ということなわけで。
「初めまして。一年G組、鳳長太郎です。テニス部に所属しています。よろしくお願いします。」
やっぱりか。
全身から爽やかスポーツ少年オーラを出しながら、控え目に微笑んで挨拶をする鳳くんは普通に良い後輩になりそう。
だからこそ、最初にきちんと言っておかなければ。
「初めまして。私は二年G組のです。文化活動委員は基本的に縦割りで活動することが多いけど、G組の三年生は委員長も兼ねてるから、
何か質問があったら基本的に私に聞いてね。
あと、この委員会の活動は結構ハードだから、テニス部との両立は正直言ってかなり厳しいと思うよ。
でも、学校行事を企画・進行していく大事な役目を担っているから、しっかり責任は果たしてもらいたい。
もし、部活の試合とかの都合で委員会活動に支障が出そうなら、遠慮せずに先輩たちに言うこと。
ひとりでできるって思いこんで、あとでフォローに回る羽目になる方がよっぽど迷惑だからね。頼る時はきちんと頼ること。いい?」
厳しいようだけど、しっかり責任を持って仕事をしてくれないと学校全体が困る。
怖いと思われたとしても、きっと仕事は全うしてくれるだろう。
先輩なんて、最初は嫌われるくらいがちょうどいいんです。
そう思って、結構厳しく指導をした訳なんですが。
「先輩、企画書書いてきたので見てください!」
「審査方法は去年のものを参考にしたんですが…」
「会議室の鍵、借りておきました!」
あれ?
なんか懐かれてるんですけど。
「なぁ、長太郎!昼休み、バスケしようぜ!」
「ごめん。今日はパス。」
「今日も、だろ?なんだよ、最近付き合い悪いぞ。」
「ちょっと委員会の企画書を書きたいんだ。」
「それ、お前この間も書いてたやつじゃん。先輩に苛められてるのか?」
それは確かに先週、誤字が無いか一応確認してほしいと言って目を通してもらったプリントだった。
ここ最近、長太郎は休み時間をほぼ全て委員会の仕事に費やしている。
もしかして、先輩に苛められて仕事を押し付けられているのかもしれない、と心配されても仕方が無いわけで。
「違うよ。俺がやりたくてやってるんだ。先輩はすごくいい人だから心配ないよ。」
正直、軽い気持ちで入った委員会で厳しい忠告を受けて落ち込まなかったと言えば嘘になる。
けれど、会を重ねていくうちに最初の忠告を実感していった。
実際、テニス部との両立は大変でアンケートの集計などは期限ギリギリになったことも何度かある。
そういう時、どうしてバレてしまうのか、いつのまにか先輩が来て手伝ってくれた。
…もちろん、結構キツくお説教はされてしまうのだが。
けれどその内容はいつも納得のいくものであり、逆に成果を上げた時はきちんと認めて褒めてくれる。
活動自体は大変だが良い先輩に恵まれた、と長太郎自身は満足しているのだ。
「うん、これなら大丈夫。わかりやすくまとまってるし、去年の問題点もちゃんと改善されてる。よく頑張ったね。」
「ありがとうございます!」
鳳くんの活躍と、私の前倒し主義によって、G組は振り分けられた仕事を着々とこなしていく。
このペースなら期限に一週間ほど余裕をもって終わらせることが出来そうです。
それにしても、入学してから一カ月ここまで仕事が出来るようになるとは。
恐るべし、鳳長太郎。
「でも本当によく頑張ってるね。テニス部、今は体力強化プログラムで練習キツいんでしょ?」
「そうですけど、詳しいですね?」
「友達が男テニ部員なの。最近筋トレばっかで練習に行くのが憂鬱だ、って言ってたから。」
文句を言っていたのは主に黒木くんなんだけど。
萩と亮はあれで負けず嫌いだから、私にはあんまりテニスに関する弱音は吐かない。
きっと黙々とプログラムをこなしているんだろう。
「もう安心。たくさんキツいこと言ったけど、ごめんね。
委員会のこと以外でも、わからないことがあったらなんでも聞いて。
これからも期待してるから、頑張って良い行事にしようね。」
「はい!よろしくお願いします。」
とりあえず、二度目の中学二年生は後輩にも恵まれて、順調にスタートを切りました。
Reflection
ひさびさ更新申し訳ない。
ようやくヒロインも二年生です。
長太郎はまさしく理想の後輩だろう、という私の決めつけで超イイ子です。
これからもっと色々なキャラを登場させていきたい!
REPLAY
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