ピンポン奪取!







青春期を何もしないで過ごすよりは、青春期を浪費する方がましである。




ジョルジュ・クルトリーヌ



015:勇者レベル99












「…はぁ。」




「どうしたんだ?溜息なんか吐いて。」




は球技大会がイヤなんだって。」










くすりと笑った萩は、恨めしそうに見上げる私の視線を綺麗なアルカイックスマイルでかわして本に視線を戻した。


楽しかったゴールデンウィークも明けて、体育系の部活は夏の大会に向けて本格的に練習を始め出した。


それはもちろんテニス部も例外ではなく。


さすがにギャラリーが多すぎると練習の邪魔になるからと、跡部景吾はファンを上手く言いくるめてコートから追い出したらしい。


それで、此処最近は萩も亮も随分と機嫌が良い。


けれど、逆に私は今どん底である。







「まさか、跡部景吾と選択球技が被るなんて…。」










私は今回、跡部景吾フィーバーで希望者が集中するであろうテニスを避け、地味で希望者の少ないであろう卓球を第一希望にして、選択カードを提出した。


それはすんなり受理されて、私の参加種目は万事滞りなく卓球に決まった。


けれど、テニスの希望者はやはり予想通り多く、急遽抽選が行われることになった。その中には勿論、跡部景吾の姿もあり。


あとは運頼み。


誰もがそう思い、其々の信じる神仏に祈り始めたとき、突如スッと手が挙げられた。


その手の主であり、完璧に整った容姿を持つその男は一言、こう言った。







「希望者が多いようでしたら、卓球に移ります。」










そうして私の地味な球技大会計画は崩されたのである。



















「はぁ。もういっそのこと休みたい…。でも休んだらマラソン…。だいたい十種類も種目があんのに被るってどういうことやねん。」




「おい、関西弁出てっぞ。」




「それだけ悔しかったんだろうね。卓球に決まったとき、本当に喜んでたから。」










そう。卓球は他のバレーやサッカーと違ってフィールドが狭い上に基本的に個人競技だ。つまり、あまり疲れず人との接触も少ない、理想的な種目なのだ。


だからこそ、私はこれを選んだ。なのにこんな展開。


これが落ち込まずにいられようか。いや、いられまい。(反語)


不幸中の幸い、男子である跡部景吾と女子である私では、絶対に打ち合うことが無い。


今回の球技大会はルージュとブランの2チーム対抗で、私と跡部景吾は別チームなので、混合ダブルスでペアになる可能性も無い。


唯一懸念されるのは混合ダブルスで当ってしまった場合だろうが、そんな確率の低い心配を今から抱えて胃を痛めたくはありません。







「だいたいルージュとブランって。『紅白対抗』って言った方が文字数少ないのに。なんでわざわざフランス語にするかなあ。」




「球技大会は二チームだけど、体育祭はもっとチームが増えるよ。」




「それもフランス語?」




「うん。フランス語。」












この学校は無駄が多い!と思う事で現実逃避。


悩んでも決まっちゃったものはしょうがない。


本人に接触さえしなければ大丈夫なはず。







なんて思った私は甘かった。






















「あーあ。あの様子だと、の機嫌は相当悪いだろうね。」




「…慣れないヤツにはキツいな。大分慣れた俺でも室内は声が響いて辛いくらいだしな…。」










偶然にも種目が被っていた滝と宍戸は、の様子を見に体育館へ足を運んだ。


午前中に行われたサッカーの試合はなかなかにハードだったが、テニス部で厳しいトレーニングを積んでいる二人にとっては大して問題では無い。


午後から卓球の試合が行われる体育館は、あの跡部景吾が出るとあって試合前から既に大混雑だ。


テニス部の応援を禁止されてしまったことで溜まったフラストレーションがここで発散されようとしているらしい。


初めから卓球を選択していた人間にとっては良い迷惑だろう。


なんともお気の毒様である。




















「うわ、最悪。公開処刑じゃん。」










事前に引いたくじによって調整されたトーナメント表をもらって、取り敢えず跡部景吾と絶対に当らないことを確認して安心していると、隣にいた男子がうんざり、と言った調子で呟いた。


ゼッケンの名前とトーナメント表を確認する。







「うわぁ。一回戦からか。不運だね…。」










第一試合。『跡部景吾』の横に並べられた『黒木潤』の文字。


今日のこの状態じゃ、いくら二チーム対抗と言えども、完全アウェーだ。


勝っても負けても損をする、言葉通り貧乏くじをひいてしまったらしい。







「ホント。最近せっかく部活は静かになったのにさ。」




「テニス部なんだ。それはまた二重で災難だね。」




「仕方が無いよ。俺はきっとそう言う星の下に生まれたんだ。諦めて討ち死にしてくるよ。」










随分とノリの良い子だ。しかも全部淡々とした口調で言うから余計に面白い。







「同じチームだし、私は黒木くんを応援するよ。安心して。骨は拾ってあげる。」




「ありがとう。出来ればカリブ海に散骨してほしい。」




「なぜカリブ?」
























当然というかなんというか、個人戦も男女混合ダブルスも総合優勝も全部、跡部景吾が攫って行ったらしい。


私は個人戦は三回戦、ダブルスは一回戦で敗退して、早々と体育館を去ったので最後まで見てはいなかった。


それでも更衣室でファンの女の子たちが、事細かに試合の内容を興奮気味に喋っていたので、私は跡部景吾の試合内容をしっかり頭に刷り込まれた。







「お疲れさまー。」




「お疲れ様。どうだった?一日テニス部気分を味わってみた感想は?」




「うん。もう二度と御免。」










未だ球技大会の熱気冷めやらぬクラスメイトを横目に席に着くと萩からからかい混じりの言葉が掛けられた。


あんな歓声のなかで集中も何もあったもんじゃない。


それでも黒木くんは飄々と跡部景吾の対戦相手を務めていたので、やっぱり慣れているんだなと感心した事を述べた。







「黒木か。俺はまだあんまり喋ったことないんだけど、テニスは上手いよ。」




「へぇ。なんかすっごく面白い子だったから、喋ってみることをお勧めする。」




「それは褒めてるの?」




「面白いは褒め言葉だよ。」














とにかく、今日は疲れたので家に帰ったら光に電話して癒されようと思います。























Reflection


オリキャラの黒木くんを出したかったが為の球技大会。

なんかいつもながらに自己満足な感じで申し訳ない…。

ヒロイン一年生時のエピソードであと書いておきたいのは3話ほど。

駆け足で二年生に向かいたいと思います。



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