尊重と愛情














似ているようで異なる世界。










そこは私が捨てざるを得なかった場所。









013:ノスタルジック・ストロベリー
















「やっぱ思った通り!青いのもあってんけど、光は黒が似合うと思ってん。」









私のプレゼントしたTシャツとワークシャツを着てくれた光はばっちりカッコよかった。


合わせた細身のブラックデニムと白のラバーソールで足先まで完璧。


やっぱりお洒落だなぁ、なんて満足しながら頷いていると、光に小突かれた。







「ぼけっとしとらんと、行くで。」




「うん。」












梅田までは地下鉄で出て、其処からは私鉄。時間的にはJRが一番早いけれど、連休中は混む。


車窓から見える景色は、私が元居た世界とは少しずつ違うのに、駅名地名は変わらない。


観光スポットや大きなファッションビルも、名前が微妙に違ったりするものの、外観や立地はほぼそのまま。


それが反って寂しさを感じさせる。


もう大丈夫だと思ったから、見に来たのに。


まだホームシックを感じる程には前の世界に未練が残っていたらしい。


無意識に光の腕にしがみつくが、解かれてしまった。


途端に不安になるとすぐに指が絡められる。


不思議なもので、こうやって光に触れていると心から安心できる。


前世で過ごした時間の方が遥かに長かった筈なのに、もう私の中の一番奥に住んでいるのは光なんだ。


そう思うと繋がれた手を余計に愛しく感じる。







「何処から行きたいん?」




「結構歩くことになるねんけど、センター街を通って元町の方に抜けて、中華街でご飯食べて、ハーバーランドに行きたい。」




「どんだけ欲張んねん。っていうか、は今日そんな靴で長距離歩けるん?」




「…たぶん?」










そうなのだ。


今日のわたしはデート仕様と言う事で、ふわふわしたシフォン素材の青い小花柄が可愛いワンピースと、薄紫のかぎ針編みのカーディガン。


それに先が丸くなっている赤いストラップシューズを合わせる、と言う可愛らしいけど動きにくいコーディネイトで固めている。







「また来ればいいから、今回はセンター街はパスな。元町まで電車で行くで。」




「…なんか光、小慣れてる。まだランドセルの癖に。」




「うっさいわ。なんなら靴ズレするまで歩かしたってもええねんで?」










まさか年下(しかも忘れがちだけど小学生)にエスコートされるとは。


土地勘があった筈なのに、それを活かせるだけの機転が回らない。


あれ?私、もうちょい出来る子じゃなかったっけ?















元町で降りて中華街へ。


店の前に構えられている露店でフカヒレまんや海老団子を買って頬張る。


さすがにゴールデンウィークだけあって凄い人だけど、食べ物は美味しいし、光と一緒だしで大満足。







「ううっ。パンダ饅頭がこっち見てる…。でも此処で食べすぎたら次のとこで食べれへん…。」




「まだ余裕で食べれるやろ?」




「限界まで食べ続けてたら太るやんか。」










これでも体型維持には気を付けている。


氷帝の基準服は、そこそこ細くないと着こなせないような可愛らしいデザインなもので。


もし青学に行っていても、そこは同じだろう。


前世では大抵どこの学校も採用していた紺ブレザーとプリーツスカートとかだったら、此処まで気にせず済んだのに。







「そこのパンダ饅いっこ下さい。」










なんてつらつらと制服に関する不満を申し立てているうちに、光はしっかりパンダを捕獲していた。


蒸したてでほかほかしていてやっぱり美味しそう。


だけど私にはこの後ハーバーランドでジェラートを食べる、という計画があるのだ。


けれども目線は自然とパンダの方へ向いてしまう。







「おいしい?」










そう尋ねると、ちょいちょいと軽く手招きされる。


素直に近寄って行くと一口大にちぎったパンダ饅を口に入れられた。







「自分で食べてみなわからんやろ?一口くらいなら平気や。」




「…おいしい。ありがとう。」




「じゃ、次んとこ行くか。」












そういえば。


小さい頃は二人とも一人前食べれなくて、何でもはんぶんこにしたな、なんて懐かしく思った。










今度は地下鉄に乗ってハーバーランドへ。


此処もやっぱり前世とは微妙に違う。


閉鎖した映画館がまだ営業していたり、ドッグカフェが無かったり。


有名なチーズケーキのお店は小さいもののきちんと存在して、ジェラートのお店も記憶と同じ場所に佇んでいた。


私はレアチーズケーキ&ストロベリー、光は大納言小豆のジェラートを持ってウッドデッキへ向う。


港が一望できるデッキはやはりと言うかカップルが多くて、場所を見つけるのがなかなか大変だった。







「今日は付き合ってくれてありがとう。」




「…満足したん?」




「うん。」










きっと光は今日一日、私の様子がおかしかったことに気が付いている。


だけど、決して無理に聞き出そうとはしないだろう。


そんな光に私はどうやって応えたらいい?


今日の違和感の理由を話すとなると、私の存在の始点から話さなければならない。


それを全部言っても、私の居場所は此処にある?



冷たいジェラートは舌に痛くて、なかなか進まない。


赤とピンクと白のマーブル模様は今の私のようだ。


帰ることも、過去を消すこともできない。酷く不安定な異分子。







「…また、一緒に来てな。」




「今度は長距離歩けるような服にするんやったらな。混んでる電車はしんどいわ。」












私はズルい。


言わないことは、嘘を吐くこととは違う、と自分に言い聞かせて。


そうやって、薄い盾で自分の居場所を守っている。


いつか失う事が怖い。


過去に一度世界を味わった喪失感もそれなりにキツかったけれど、今度はあの程度では済まないだろう。




心の深い所まで侵入を許した存在ほど、失った時のダメージが大きい。


だからと言って誰も心に入れずに生きることなどできなくて。


結局、光に甘えて隠し続けることしか出来ない。







「食べ終わったらそろそろ帰るで。」




「うん。」













だけど嘘は吐かないから。


差し伸べられる手にもう少し甘えさせて。


狡い言葉はコーンと一緒に噛み砕いて飲み込んだ。























Reflection


前半を甘く、後半シリアスにしようと試みて中間ができあがりました。

あれ?手も繋いでるし、あーん、もしてるのに何故ここまで甘くない?

後半のヒロインの葛藤は、連載を続けられたら将来書きたいと考えている内容の伏線となるよう、意識しました。

頑張って辿り着きたい。



応援、よろしくお願いします。





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