伊丹はギリギリ兵庫県















楽しみにすればするほどその日が来るのが遅く感じる。










012:その手をつないで









とうとう待ちに待ったゴールデンウィーク。


初日の夜に飛行機に乗って伊丹まで飛ぶ。


一時間で着くなんて、飛行機ってすごい。


二十一世紀に生まれてよかった。


飛行機から降りて、キャリーを引きながらタクシー乗り場を目指す。


時々耳に入る関西弁に帰って来た実感を得ていると、突如トランクを引く手が引っ張られた。


驚いて振り向くと、そこにはずっと会いたかった従弟。






「光!?迎えに来てくれたん?」




「おかんが迎えに行ってご飯食べてくる、言うから。飯、食いっぱぐれるのは敵わんから来たった。」










光は照れているのか、早口気味に喋る。


まだ一カ月程度だから、そんなに変っていないと思っていたけど、光は若干身長が伸びている。


顔つきも、前に会った時より大人びているし。


うん。ますますカッコよくなってる。


やっぱり自慢の従弟だ。







ちゃん、久しぶりやね。元気しとった?ちょっと見いひんうちにえらいべっぴんさんなったなぁ。光!荷物持ったって!」




「自分で持てるからいいよ?」




「ええ。持ったるから貸して。」




「やっぱ女の子がおらんと張り合いないわ。光はもう服選ばせてくれへんし。それに私もどうせ選ぶんなら女の子の服の方が楽しいやろ?ええなぁ、女の子。」




「さっきからうっさいわ。メシ食べに行くんやろ?さっさと行かな店閉まってまうわ。」




「聞いた?!ほんまに可愛くないねん!」










伯母さんは相変わらずらしい。


なんだかんだでこの二人は仲がいいのでお互いキツイことを平気で言う。


久々に聞いた掛けあいに思わず笑みを零すと、隣に居た伯父さんに頭を撫でられた。







「久しぶりに帰って来たのに、煩くて堪忍な。は夕飯、何食べたい?」




「久しぶりにおいしいお好みが食べたいかな。」










相変わらずカッコいい。


光も将来こんな風にカッコよくなるんだろうなぁ、なんて思いながら、素直に甘えさせてもらってます。


お父さんとお母さんは光と伯母さんの遣り取りを聞きながら笑っている。と、なるとこれを止めるのは一人しかいないわけで。







「二人とも、ええ加減にせな置いてくで。ちゃん、行こか。さんらも。車で来てますんで、ついてきて下さい。」










いつもながら、伯父様、お見事。


光からキャリーを奪うと、私の手を引いて颯爽と駐車場へ向う。


不意に左手が絡めとられる。







「言うん、忘れとった。おかえり。」










光らしい、ぶっきらぼうな言い方。


やっぱり私の帰る場所はまだ此処だよ。


左手をギュッと握り返す。







「ただいま。」










































その後、お好み屋でそれぞれの近況を報告。


私が茶道部だと言ったときの伯母さんの反応はすごかった。


(「茶道部!めっちゃ女の子やん!ちゃんにピッタリやな、光!」「興奮しすぎや。それにまだ活動してへんのやろ。」「光、ちゃんの部活知っとったん?やったらなんで私に報告せえへんねん!」)


一方の光は最近ギターを始めたもののまだ弾きこなせていないらしく、伯母さんに暴露されて不機嫌だった。


なんか最近反抗期みたいや、とは伯父さん談。


久しぶりの二家族での食事はめちゃめちゃ楽しかった。







、風呂用意できたから先入ってき。」










三日間お世話になる財前家は、伯母さんの手によって準備万端に整えられていた。


柔軟剤の効いたふかふかのタオル(ピンク)の隣に、ルームワンピ(どピンク)と十分丈のレギンスが置かれている。



伯母さんが昔から私、と言うか女の子に夢を見ているのは知っていたけれど、今回はすごい。


このどピンクを湯上りの私に装備しろ、と。


…まぁ、でも家の中だけだし。そう言い聞かせたんだけど。







「……!!!」




「笑いたいんやったらせめて思いっきり笑って。そうやって堪えられる方がスベったみたいで辛いんやけど。」




「ちょ、そのピンクはあかんやろ!どうしてん。東京言ってセンスおかしなったんとちゃうん?」




「言わせてもらうとこれ用意してくれはったん、光のお母様やで。」




「……。」










どピンクは光のツボだったらしく、盛大に笑ってもらった。


普通はこの位の女の子なら怒るところなんだろうけど、生憎私は笑いをとれてラッキーだと思っている。


グッジョブ、伯母さま。







「んで、明日はどうするん?」




「お父さんは会社に挨拶に行くって。お母さんは伯母さんと一緒に買い物。私も誘われててんけど、断った。ということで、光。明日一緒に神戸に行かへん?」




「なんで神戸やねん。」




「前々から行きたかってん。」










神戸は前世の私の出身地だ。


どうしても、此方の世界ではどうなっているのか見ておきたかった。


自分でも唐突だと思う。だけどやっぱり一人では心細いわけで。







「あかん?イヤやったらひとりで行く…。」




「はぁ。一人で行かせたら心配で余計に迷惑やし。しゃあないからついてったるわ。」




「ありがとう、光!だいすきっ!」




「子守くらいで大袈裟やねん。」










小さいときからの癖で思わず抱きつく。


さすがにこの年では光に嫌がられるかと思ったけど、何も言わないから好きにさせてくれるんだろう。


それにしても子守って。自分より年下の従弟から完全に子供扱いだ。


グレるぞこのやろう。







「そんな光くんに私からお土産があります。」




「お土産?」




「そう。東京行ってから電話で迷惑かけまくったからね。」




「ああ、あの号泣したやつのことか。」




「うっ…。左様でございます…。」




「美味しなかったら全力で詫びてな。」




「ふふふ…。今回は食べ物じゃ無いねんで!」










私は得意気にそう言い放って、キャリーを探った。


お母さんに付き合ってもらったけど、ちゃんと自分で選んだ。


大阪にはまだ無いショップの光に似合いそうな服!







「どうぞ、お納め下さいませ。」










おっかなびっくり包装を開け始める光。


光の反応が気になる私。


妙な緊張感が漂う中、徐々に剥かれていく包装紙。







「カッコええやん。」










私が選んだのは、パンク調のワッペンがついた黒い半袖ワークシャツと、同じく黒い五分袖のTシャツ。こちらは蜘蛛がシルバーでプリントしてある、シンプルだけれど地味じゃない一枚。


ちょっと大人っぽ過ぎるかな、と思いながら買ったんだけど、久しぶりに会った光を見るとそうでもなさそう。


もうちょっとで子供服の店で選ぼうとするところだった私を許してほしい。







「気に入ったわ。ありがとう。」




「ほんまに!?ちょっと着てみてくれへん?」




「嫌や。」










褒められて調子にのった私に光が一刀両断。


地味に凹む一撃だった。


相変わらず人の柔らかい所を見つけるのの上手いこと!







「どうせ明日着るねん。風呂入る前に袖通したくない。じゃ、風呂行ってくる。」










そう言い捨ててさっさとお風呂場へ行ってしまった。







「どうせ明日着る…って。」










つまりは明日は私が選んだ服で一緒に出かけてくれるということで。







「一回がっかりさせといて、そんな事言うなんて反則だよ…。」










悔しいので今日は光の部屋に布団を敷くことにします。


























Reflection


ツンデレを目指してこ ん な こ と に ! !

あれ?なんかまた次回へのフリだけで終わった?!

ヒロイン、光相手だと無意識にガードが緩むので、子供っぽくなってます。

氷帝で標準語で喋ってるのは悪目立ちしたくないから。

私は関西人なので、光との会話は書いてて楽しい。



REPLAY
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