75日って普通に長い。












なんでこんなに騒がしいの?



連休の明けた火曜日、学校に来てみるといつもより学校中が興奮気味でした。







010:人の口には戸が立てられぬ
















原因はもしかしなくても跡部景吾だろけど、今日の騒ぎ方は一段と激しい。


悲壮感漂わせている者あり、茫然と心ここにあらずな者あり。


そして隣の席の滝くんのぐったり感が酷い。


覇気がない。まるでぬいぐるみのようだ。







「滝くん。一体なにが?」




「日曜日に跡部が三年生の先輩と付き合い始めたらしい。」





なるほど。実に簡潔且つわかりやすかった。


滝くんは必要最小限しか言わなかったけれど、恐らく。







「今日の朝練、その彼女とやらが来て荒れたわけだ。」




「そう。教室に来る途中でも、知らない先輩から質問攻めに合うし。本当、いい迷惑だよ。」




「教室に来てもみんなその話ばっかりだし?」






滝くんは一つ大きな溜息を吐くと机に突っ伏した。


綺麗に切り揃えられた髪が広がる。


恐らくその『跡部景吾の彼女』は周囲のファン達に牽制をかけたのだろう。


けれど確かファンクラブとやらは、『抜け駆け禁止』とか言う何とも中学生らしい発想で定められたルールがあったのでは?


まぁ、私にはどうでもいいのだが、こう教室中が騒がしいと落ち着いてお弁当も食べられない。


しかし。


私には、那智先輩から貰った楽園への切符(部室の鍵)がある!!


今こそこれを有効活用すべきだ。



















「俺までよかったのか?」






現在昼休み。


私たち三人は茶道部部室で仲良くお弁当を広げている。


先ほどの発言はその三人目、宍戸亮の口から出たもので。







「気にしないで。むしろ、先週末に迷惑かけたお詫びだから。さすがに今日は何処へ逃げてもテニス部は辛いだろうし。」




さんもこう言ってることだし、甘えさせてもらおう?」




「いや、むしろあの時は俺も気が立っててキツイ事言ったし…」






うん。面倒くさい。


意外に宍戸くんは引きずるタイプなのか?


けれども、自らの非を素直に認める姿は好感が持てる。







「わかった。じゃあ、私と友達になって。友達なら、遠慮はいらないでしょう?それに今、クラスの女の子たちとは価値観とか趣味嗜好とかその他諸々が違いすぎて、友人らしい友人は滝くんしかいないから。」






これなら丸く収まる。


何より宍戸くんの性格は好ましいし、友人が欲しいというのは紛うことなき本音だ。







「おう。わかった。よろしくな、!」






宍戸くんはそれはイイ笑顔で承諾してくれた。







「それにしても、こんなに噂が広がるなんて、一体なにがあったの?」




「手始めに朝練の後、部室へ向う跡部の汗をタオルで拭いてやってたな。」




「それでまず最初の悲鳴。でも決め手となったのは、その後の会話だろうね。彼女が、昼食を一緒に食べたいって言ったのに対して、跡部が承諾の返事を出したから。」




「んで、その後抗議しに行ったファンクラブの女共に、自分は日曜日から跡部景吾と付き合ってるから文句を言われる筋合いはない。疑うのならテニス部員に聞いてみろ、って言いやがったんだよ。」



うーん。


なんともまあ、青いと言いますか。


それにしても。







「見事に巻き添えにされたわけだ。」




「それも心当たりの全く無いことでね。部活が一緒とは言え、跡部の私生活まで俺達が知るわけ無い。」






滝くんは苦々しく吐き捨てて、卵焼きを箸で摘まんだ。


宍戸くんは黙々とサンドウィッチを咀嚼しているが、その雰囲気は荒々しい。







「なんだったら、暫く此処でお昼食べる?此処なら女の子も来ないし、私も一人で食べるより誰かと一緒に食べるほうが楽いしから。」




「…本当にいいの?俺はありがたいけど。」




「うん。全然。むしろ嬉しいよ?宍戸くんは?」




「すげー助かる。」






は人見知りなんやから、友達ができたら大事にせんとあかんよ。』とは母からのお達しである。


それが無くても、苦しんでいる友人を見捨てられるほど性格が悪くなったつもりはない。


茶道部部室は自由に使っていいと(那智先輩から)許可が出ているし。


何より、『友達』とお弁当を食べられるのは嬉しい。


なんか、自分で自分が可哀相になるような台詞だけれども。







「それにしても、最近の子は進んでるねぇ。」




「全くだね。」




「お前ら幾つだよ。つーか同い年だろーが。」




「宍戸くんは、ツッコミ属性か。よかった。滝くんと私じゃダブルボケでツッコミが間に合ってなかったから助かる。」




「え?さんの中では俺、ボケキャラだったの?」






滝くんは普段はしっかりしてるのに、妙なところで天然だから。


ツッコミは安心して任せられません。







「それにしても、お前らやけに他人行儀じゃねぇ?まだ苗字にさん・くん付けかよ。」






言われてみれば、確かにそうだ。


きっかけが無かったから、『滝くん』呼びで来たけれど、ちょっと呼んでみたいあだ名があったのだ。







「これからはタッキーで。」




「却下。」






うん、玉砕。


宍戸くんは、目だけで『変なあだ名をつけるなよ』と言ってる。


『りょーちん』とか『りょーちゃん』とか呼んでやろうと思ってたのに。







「……わかった。じゃあ、『亮』と『萩』ね。」






『亮』は短いからいいけど、『萩之介』は、綺麗な名前だけど長すぎる。







「仕方が無い。それで妥協するよ、。」






さらっと名前呼びをクリアした萩と対照的に照れてしまっている亮がすごくかわいい。







「亮は呼んでみてくれないの?私の名前。」




「っ!今度用事が出来た時に呼んでやるよ!」










そう言い残して、慌ただしく教室へ逃げ帰ってしまった。




このころから普通に足が速かったんだなぁ。




って言うか。







「お預けされた?」




「宍戸は照れ屋だから。」

















Reflection



とうとう名前呼びさせるとこまで漕ぎ着けた!

私の中では宍戸さんは純情照れキャラだから!聖域!





次回からシリーズにするか、連載にするか、悩みどころ。

取り敢えず、跡部や忍足との接触は当分の間ありません。

夢要素が少なくて申し訳ない。



REPLAY
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