導火線は短めです。









人は十五歳の時たくさんいろいろな事を考える。


そして人生の問題を殆ど発見する。


その後は、それに慣れて、だんだんにそれを忘れていく。


シャドンヌ






009:予期せぬ邂逅










「朝練お疲れさま。それにしても今日も相変わらずテニスコートの周辺はすごい人だかりだったね。」




「うん。諦めて適応し始めた自分が悲しいよ。」




「安心して。私も慣れ始めた。」








あの衝撃の仲良くなりたい宣言からおよそ一カ月。


滝くんは喋ってみると意外に話が合って、今ではいいお友達だ。


同年代の他の子たちよりも考え方がしっかりしているし、頭の回転も速い。


『なるべく悪目立ちしたくない』という私の思いも汲んで、気を使ってくれる。


これは友達として相当良物件なんじゃないだろうか、滝萩之介。







結局、そのうち鎮静化するだろうと思っていた跡部景吾信仰は留まることを知らなかった。


むしろ、一か月でファンクラブ体制が整ってより加速した。


まぁ、跡部グループの財力で氷帝テニス部の設備をグレードアップして貰った手前、他のテニス部員も文句は言えないらしい。


『早く収まってくれないかな…』なんて遠い目をしている滝くんには悪いけれど、彼は三年生になってもあのままです。







さーん!!桂木先輩が呼んでるよ!」






こんな朝から何の用だろう、と取り次いでくれた女の子にお礼を言って廊下に出ると、相変わらず見目麗しきお姿。







「朝からごめんね。でも、今日は今しか時間が無かったから。これ、渡しておくわ。」






そう言って渡されたのは部室の鍵。







ちゃんに預けとくから自由に使って?」




「生徒が持ってて大丈夫なんですか?」




「平気よ。これは合鍵だから。それに、たまには静かにごはん食べたい時もあるでしょう?」





そう言って、桜のキーホルダーの付いた鍵を差し出された。


無断で合鍵を作って使うことはいけないことだけれど、銀色の輝きが『私を使って!』と言わんばかりに誘惑するのが悪い。


ありがたく活用させて頂きます。



























氷帝の授業は、これは本当に中学生の範囲かと疑うほどにレベルが高い。


けれど、人生二度目の私にとっては普通の義務教育じゃないのは好都合。


退屈しなくて済むし、何より新しい知識が増えるのは楽しい。


ノートを読みやすいようにまとめたり、プリントを提出するなんて久しぶりだから結構新鮮で、必要以上に張り切ってしまう。


一年生は一学期の中間テストが無い代わりにノート提出を課されていて、気合いが入った私のノートは自分で言うのも難だけれど、参考書のようだ。


満足しながら明日提出する予定のノートを確認していると、一冊だけ見覚えの無いノート。







「これ、滝くんの英語のノートだ。」






ブラウンのシンプルなノートには『滝萩之介』としっかりした字で名前が記されている。


もう放課後だし、滝くんは部活に行ってしまった。


本来なら明日渡せばいいんだろうけど…







「作文、まだ書いてない・・・」






英語はノートに英作文を書いて明日提出するように言われている。


たぶん今日、家に帰ってから仕上げて提出するつもりだったんだろう。


テストが無い分提出点を引かれるのは辛いよね。


これは届けてあげるべきだろうなぁ。


もはや戦場(乙女的な意味で)のテニスコートへ向うのは非常にイヤなのですが。


滝くんのことは好きなので、一肌脱ぎましょう。



















「跡部さまぁー!!!」




「跡部くーん!!!!」








どこのアイドルのコンサートだ。


跡部景吾のプレイしているコートのフェンス周辺は、中の様子が全くわからないほどの人垣ができていた。


よくこんな状況でテニスができるな。


明日は存分に滝くんを労わってあげよう。


とりあえず、今日は近づくのは無理そうなので、前を歩いている長髪のテニス部員に頼んで取り次いでもらえばいいだろう。


あんな見事な長髪は滅多にいないだろうから、十中八九超高速ライジングの人だ。


自分から関わりに行くなんて本来ならば遠慮したいけれど、今回は唯一の友達(自分で言ってて落ち込んだ)滝くんの為だ!!


なんかデジャビュだぞ。このパターン。







「すみません。一年生のテニス部員の方ですよね?」




「だったら何だよ?」






此方を振り返った宍戸亮(仮)の顔はそれはもう険悪だった。


跡部景吾のファンのせいでテニスに集中できなくてイライラしているんだろう。


気持ちはよくわかる。


だけど、初対面の女の子にその態度はないんじゃないだろうか?







「言っとくけど、跡部を紹介してくれとか話があるから呼んできてくれ、とかだったらゴメンだぜ?だいたい、俺らはテニスをしに来てるんだよ。単なるミーハーでコートに来てんなら…」






たぶん、『帰れ』と続くはずだったであろう台詞は最後まで言わせてあげなかった。


宍戸亮(仮)はポカンとした顔で此方を見ている。


そりゃあそうだろう。


初対面の女の子に会話の途中でいきなり両頬をがっちり挟んで睨まれたら吃驚して当然だ。


けれど、こうでもしなければ勘違いしたまま話も聞かずに追い返されてしまうだろう。


まぁ、腹が立ったから強硬手段に出た、と言う理由も否定しないけれど。







「最初に言っておく。一つ、私は跡部景吾に用は無い。二つ、今日私が迷惑になるとわかっていながらもテニスコートを訪れたのは、テニス部に所属している友人に至急の用があるからだ。三つ、その友人は一年D組の滝萩之介と言う。」






一息で言い切って頬を挟んでいた手を離す。






「あー。その、勘違いしたみてぇで悪ぃ。ここ最近、跡部絡みで寄ってくる女子が多かったから…その…」




「こちらこそ。話を聞いてもらう為とは言え、名乗りもせずに無礼な態度をとってごめんなさい。滝くんのクラスメイトのです。」




「おう!E組の宍戸亮だ。…滝、呼べばいいんだったよな?」




「うん。お手数掛けて申し訳ないんだけど、どうしても帰る前に渡したいものがあるから。」




「呼んで来る。待ってろ。」






宍戸くん(確定)は素直に名乗って滝くんを呼びに行ってくれた。


うん。やっぱり根はイイ子のはずなのだ。


そんな子を此処まで女性不信にしてしまうなんて恐るべし、女の子パワー。


明日だけとは言わずにこれからはもっと滝くんを労わってあげよう。


こんなストレッサーだらけのところでテニスをすれば、肉体的疲労だけじゃなく、精神的疲労も溜まる一方だろうから。


決意を新たに固めていると、遠くからここ一カ月ですっかり見慣れたシルエット。







さん。どうしたの?放課後にテニスコートに来るなんて珍しいね。」




「これ。英語のノート、私の荷物に紛れてたから。明日、提出だから無いと困るでしょ?」




「うわー。助かったよ。ありがとう。わざわざゴメンね?」






どうやら届けに来たのはやっぱり正解だったらしく、物凄く感謝された。







「お礼に明日、ジュースでも奢るよ。」




「だったら、宍戸くんにもご馳走したげて。私、彼にかなり強引に『滝くん呼んで』って頼んだから。」






わたしが奢ってもいいけれど、今日会ったばかりの子にジュースを貰っても困るだけだろう。


元はと言えば滝くんのノートが原因なんだから、フォローさせても文句は言えまい。







「あれ?あんな短時間で仲良くなったの?」




「一応、名乗り会った仲?みたいな。」


































Reflection

宍戸と遭遇。

本当はこの話で仲良くなるところまでやりたかったんだけど、無理だったゼ。(挫折)

なんだかこの連載の跡部景吾は気の毒ポジションだな…

申し訳なさいっぱい。

けど、この扱いで通すよ!!(笑)



REPLAY
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