ドーピング?いいえ、基本スペックです。









「せっかくやから、中学校受験してみいへん?」









007:さくらいろメランコリー







そう言って渡されたパンフレットは名前の恥ずかしい学校と俺様生徒会長の君臨する学校の二者択一でした。






新しく住む予定の家から通える範囲にある私学が氷帝と青学の二校らしく。


結局私が選んだのは氷帝。


お母さんは「二つとも受けてみたら?」と勧めてくれたけれど、受けたら確実に受かるので滑り止めは必要ない。


これでも前世は大学生だったのだ。中学受験如きに遅れは取りません。


それでも受験は受験。


出願やら試験やら新居の準備やらで何度も大阪と東京を行ったり来たりで精神的にも肉体的にも疲れていた。


とは言っても完全に気を抜いていた私が悪い。


届いた合格通知に同封されていた、


『お願いしたい事があるので届き次第お電話下さい。』の紙。


嫌な予感にビクビクしながら電話を掛けると案の定。







「毎年、入学試験でトップだった生徒に新入生総代をお願いしているのですが、引き受けてもらえませんか?」






そりゃぁ、こう見えて一度義務教育を修了している身だから挨拶なんてぶっちゃけ余裕だ。本来なら引き受けても構わない。


けれども問題は私があの『俺様何様跡部様』と同じ学年だと言うことだ。


彼は漫画で見た限りプライドが高い。


けれどもその反面、力のある人間を素直に認められる、という強さも持っている。


その人柄は認めるけれども、万が一ライバル認定されてしまったら間違いなく平穏な学園生活は望めない。


『ライバル』と書かれた特大フラグがぶっ刺さっている青学の手塚国光がいい例だ。


勿論、これから始めるテニス部の活躍に興味が無いわけじゃない。


けれどもあの中に混じって青春出来るほどのモチベーションは生憎と無い。


私的にベストなポジションは、目立たずに全てを見渡せるような位置なのだ。


そのためには跡部景吾と知り合って余計なフラグを立てるわけにはいかない。


此処は何としてでも新入生総代は避けなければ。
















小一時間に渡る交渉の結果、教師を上手く丸めこむことに成功して、総代は同点トップの男の子が一人で勤めてくれることになりました。


学校側としては、氷帝学園始まって以来の同点トップだったので、二人で新入生総代をやって欲しかったみたいだけど。


春休み中は引っ越しでバタバタするから責任を果たせるかどうか自信が無い、で逃げ切りました。


うん。絶対もう一人のトップの男の子は跡部くんだよね。


多分派手に挨拶するんだろうな。


人間、自分に火の粉が降りかからないとなれば現金なもので、今はもうどんな挨拶をしてくれるのかちょっと楽しみですらある。


























なんて軽く考えていた昨日までの自分にチョークスリーパーをお見舞いしたい。


それはもう全力で。


跡部くんの挨拶は問題無かった。むしろパーフェクト。


問題があったのは周りの方だ。




女の子は総じて美形に弱い。


特に思春期の女の子はそれが顕著だ。


つまるところ、入学式のたかだか五分のスピーチの間に氷帝学園の大多数の女子は跡部景吾の虜になってしまった。


そりゃあ、そこらのアイドルよりもカッコいい存在が身近にいれば騒ぎたくなる気持ちもわからないでもないけれど。


正直、テンションについていけません。
































「そのアトベとはちゃうクラスなんやろ?」






「女の子のパワー舐めてかかると痛い目見んで。我がD組の女子は全滅。休み時間の話題は跡部様一本。」






「なるほどな。それで友達つくんの躊躇っとるんや?」








そうなのだ。


中学生になったら光とも離れて暮らすわけだし、そろそろ同年代の子と仲良くする努力をしようと思っていたのに、最初の一週間で断念せざるをえなかった。


つまるところ、跡部景吾にそこまで心酔できていない私はクラスの女の子の話題についていけなかったのだ。


それで結局大阪の光に電話で愚痴をこぼす始末。


我ながら実に情けない。








「なんか一気に人間関係に自信が無くなってきた。」






此処までクラス中が跡部様崇拝ムードだと、自分が間違っているような気さえしてくる。







「アホやなぁ。別にクラスに拘らんでも学年の半分は女子やろ?もっと言えば学校の半分が女子や。どうしても見つからんかったら他所の学校で探せばええやろ?」






珍しく優しい光の言葉に涙腺が緩む。


なんだか、思った以上に不安になってたみたいだ。







「それでもどうしてもアカンかったら大阪帰ってきたらええねん。」






それは酷く優しい言葉だった。


涙が頬を伝う。


泣いていると覚られたく無くて必死に声を押し殺した。


会話が途切れる。


それでも電話を切らずに黙って待ってくれる光はきっと私が泣いているのに気付いてる。


不自然な無音状態に光の不器用な優しさを感じて嬉しくなった。















結局あれから一頻り泣かせてもらった。


ようやく落ち着いた所で発した感謝の言葉は驚くほど掠れていて、光に笑われた。


こっちに来てからなんだか感情が不安定になっている。


精神環境まで子供に戻ってしまったみたいだ。


取り敢えず私は私を貫き通す。


中学生活はまだ長い。


ゆっくりと自分のペースで適応して行けばいい。


手始めに明日からの部活見学会を楽しもう。


うん。学校中が落ち着くまで私は傍観者に徹する。






























そうやって決めた端からなんだこれ。


もはや運命的なものに嫌われているとしか思えません。


初めての音楽の授業を終えて、次の授業はなんだったっけ、などとぼんやりしながらドア付近の混雑が収まるのを待っていた。


今なら言える。それは死亡フラグだ、


思考を飛ばしている私の肩を静かに叩く手。


微かに香るコロンがとても似合っている。似合っているんだけど。







だったな。すまないが、これを跡部に渡しておいてほしい。」










なぜ私に頼む。






次の国語の時間は授業そっちのけで一人脳内会議が開かれた。


机の中にしまわれたファイルから何か嫌なオーラでも出ているんじゃないか、っていうくらい気が重い。


結局、『NO』と答える隙さえ与えずに榊太郎は優雅に去って行った。


大至急、このファイルの処理方法を考えなくてはならない。







とりあえずその1。普通に直接渡しに行く。






これは誰が何と言おうと即刻却下だ。


私は入学から1週間とちょっとで全校女子を敵にまわして平気でいられるような図太い神経は持ち合わせていない。


それにはできるだけ跡部景吾との接触を避けるのがベストだ。







ならばその2。他の子に頼む。






これが一見無難に見えるが、人選をミスすればとんでもないことになる。


『ファイルを届ける』と言うのは跡部景吾に話しかける全うな口実だ。私がこの権利を信者の女の子のうちの一人に譲れば誰かを贔屓することになる。


それはそれで怖いし、だからと言って頼めるほど親しい男の子もいない。それに、いたとしても女子の嫉妬の目に曝されながら跡部景吾にファイルを届けさせるなんてあまりにも気の毒すぎる。







ならば結局私が妥協するしかないのだ。






















Reflection



入学早々憂鬱な気分に陥らせてごめんなさい。

そしてヒロインの跡部に対する扱いが酷い(笑)

別に私は跡部が嫌いなわけじゃありません。これは愛情の裏返しだから!(笑)

そして次はお待ちかね。あるキャラとの出会いのシーンです。




REPLAY
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