こころの準備









それはよくある週末のことだった。伯父さんの家に家族全員でお呼ばれしての晩御飯。


突然、妙に改まった雰囲気になったと思えば予期せぬ爆弾が父によって落とされた。






「パパな、春から東京に転勤することになってん。」







006:ゆるやかに移り行く













一緒にご飯を食べていた光の手から箸が転がり落ちた。








それほど衝撃的だったんだろう。


私もショックを受けている。


東京に転勤、と言うからには栄転だろう。


けれども東京へ行く、ということは必然的に光と離れることになるのだ。


今の私たちはきっと酷く情けない顔をしているのだろう。


うちの両親だけでなく、伯父さんたちも心配そうな顔をしている。


結局それから食卓には一言も会話が無かった。




































「光、入るよ。」










さっさと食事を終えた光は無言で自分の部屋に引き籠った。


光はしっかりした子だから、私たちが駄々をこねても無駄だと理解している。


だけど、理解することと納得することは違う。


相変わらず綺麗に整頓された部屋で、光はベッドにもたれて天井を見上げていた。


その隣にぴったりくっつくように腰を下ろす。








「あと半年しかあらへん。」










ぽつり、と零された言葉は少し湿っていた。


胸が痛い。


思えば物心ついたときからずっと一緒にいた。


私が寂しい時は光が気付いてくれたし、光が寂しい時はすぐにわかった。


私は光に依存していたのだと思う。


中身が反則的な私にとっては幼稚園でも学校でも、同い年の子たちと遊ぶのはある意味苦痛だった。


けれども不思議と光と一緒にいると心地よかった。







「私、東京に行くよ。」









光の顔を真正面から見据えて、そう告げる。


光も私をまっすぐ見つめ返した。


自然に手が伸びた。


まだ細い首に両腕を回してしっかり抱き締める。


やがて、背中に光の腕が回された。







は人見知りやから東京行っても友達できひんのとちゃうか。」




「光にだけは言われたくない。」




「しゃぁないから電話の相手くらいしたるわ。」








肩が僅かに湿った感覚。


泣きながらも憎まれ口をたたく光が愛しくて。


ギュッと抱き締める腕に力を込める。







「毎日かけるから覚悟しといて」










「望むところや」










小さな笑い声が耳元を擽った。






















Reflection



ちび財前とはここでお別れ。

まだまだ書き足りない。

書きたかったエピソードのストックはまだあるんだけれど…

全部書いていたらヒロインがいつまでも中学生になれない。

何というジレンマ!!

本編が一段落したらそのうち番外編で書くかもしれません。



REPLAY
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