負けるつもりは無かったし、全力で戦った。
だから悔いはない、と言い聞かせながら深呼吸をする。
うすうす勘付いていた。
俺のことは自身が一番よくわかっているつもりだ。
自分がテニスプレイヤーとして伸び悩んでいること。
そしてテニス部が勝つためのベストメンバーに自分は不要だということ。
今回、宍戸に正面から当たって砕けたのは、良かったのだと思う。
残る問題は一度『切り捨て』られた宍戸がレギュラーメンバーに復帰させてもらえるか否か、というところだが、跡部もあれで宍戸が努力していたところを見ていた。
きっと口添えしてくれるだろう。
だから心配ない。
大丈夫だ。
それでも。
やはり悔しいものは悔しくて。
幸いなことにロッカールームは無人だった。
流石に今はレギュラーメンバーには会いたくなかった。
急いで着替えて、交遊棟の二階へ向かう。
時間が時間なので、流石に人がいない。
ただ一人、目的の人物を除いては。
「。」
窓からコートを眺める背中に呼びかけると、静かに振り返った。
「おつかれさま。」
ふんわりと微笑みながら告げられた言葉に、胸が苦しくなる。
「…約束、覚えてる?」
「勿論。」
サンドバックになる、という言葉は本気だったようで、は『さぁ来い!』と言わんばかりに歯を食いしばって目をきつく閉じた。
ラケットバッグを下ろして、静かに近付いて行くと、距離が縮まるにつれての緊張が高まっていくのが見て取れる。
決して殴られ慣れてなんていないだろうに(慣れていたら怖い)、怯えながらもそれを隠してじっと耐えているところがらしい。
そのまま、距離をゼロにして、華奢な体を包み込んだ。
「…萩?」
「殴る代わりにちょっと、こうさせて。」
駄目だ。
きっとは声の震えに気付いただろう。
さきほどがしていたように、歯を食いしばって耐えてみるものの、思っていたよりも伝わるぬくもりが温かくて。
夏服の薄いブラウス越しに、自分の涙がの肩を濡らす。
応えるようにゆるやかに背後にまわされていた腕が、あやすように背を叩く。
「萩、頑張ってくれてありがとう。」
柔らかな声音。
決壊したかのように、堪えていたものが溢れる。
きちんと受け止めて、納得するから。
だからもう少しだけ、 このままで。
徐々に陽の翳る交遊棟。
頬を濡らしながら、ただただ小さな温もりに縋った。
Reflection
理解はしていても、納得できるかどうかまた別問題。
大人びていても滝さんも中学生です。
たくさん頑張ったので、甘やかしてあげたい。
REPLAY
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