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コート周辺がざわめく。
息が苦しくて耐え切れず膝を着いた。

覚悟は決めていたといえども、実際にそうなってみると、やはり辛くて。

ネットを挟んで静かに佇む宍戸を振り返らず、俺はコートを後にした。




011:神聖な誓いにも似て 
【滝萩之介】






負けるつもりは無かったし、全力で戦った。
だから悔いはない、と言い聞かせながら深呼吸をする。

うすうす勘付いていた。
俺のことは自身が一番よくわかっているつもりだ。

自分がテニスプレイヤーとして伸び悩んでいること。
そしてテニス部が勝つためのベストメンバーに自分は不要だということ。

今回、宍戸に正面から当たって砕けたのは、良かったのだと思う。


残る問題は一度『切り捨て』られた宍戸がレギュラーメンバーに復帰させてもらえるか否か、というところだが、跡部もあれで宍戸が努力していたところを見ていた。
きっと口添えしてくれるだろう。
だから心配ない。
大丈夫だ。



それでも。
やはり悔しいものは悔しくて。




幸いなことにロッカールームは無人だった。
流石に今はレギュラーメンバーには会いたくなかった。
急いで着替えて、交遊棟の二階へ向かう。
時間が時間なので、流石に人がいない。


ただ一人、目的の人物を除いては。


。」


窓からコートを眺める背中に呼びかけると、静かに振り返った。


「おつかれさま。」


ふんわりと微笑みながら告げられた言葉に、胸が苦しくなる。


「…約束、覚えてる?」

「勿論。」

サンドバックになる、という言葉は本気だったようで、は『さぁ来い!』と言わんばかりに歯を食いしばって目をきつく閉じた。
ラケットバッグを下ろして、静かに近付いて行くと、距離が縮まるにつれての緊張が高まっていくのが見て取れる。
決して殴られ慣れてなんていないだろうに(慣れていたら怖い)、怯えながらもそれを隠してじっと耐えているところがらしい。


そのまま、距離をゼロにして、華奢な体を包み込んだ。


「…萩?」

「殴る代わりにちょっと、こうさせて。」


駄目だ。
きっとは声の震えに気付いただろう。
さきほどがしていたように、歯を食いしばって耐えてみるものの、思っていたよりも伝わるぬくもりが温かくて。
夏服の薄いブラウス越しに、自分の涙がの肩を濡らす。


応えるようにゆるやかに背後にまわされていた腕が、あやすように背を叩く。



「萩、頑張ってくれてありがとう。」



柔らかな声音。
決壊したかのように、堪えていたものが溢れる。


きちんと受け止めて、納得するから。

だからもう少しだけ、 このままで。


徐々に陽の翳る交遊棟。
頬を濡らしながら、ただただ小さな温もりに縋った。










Reflection


理解はしていても、納得できるかどうかまた別問題。
大人びていても滝さんも中学生です。
たくさん頑張ったので、甘やかしてあげたい。

REPLAY
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