「おはよう、亮。」
「おう。」
不動峰の橘に負けた後、亮は毎日厳しい特訓をしているらしい。
日に日に増える絆創膏の数に、こっちのほうが心配になってくる。
「特訓もいいけど、ほどほどにしろよ。そう怪我だらけだと、見てるこっちまで痛くなってくる。」
「…涼丞は言わないんだな。もう負けたんだから無駄だって。」
氷帝テニス部の敗者切り捨ての方針は有名だ。
そして、亮が負けてしまったことも。
人気のある反面、やっかまれることも多いので、生徒の中にはレギュラー落ちして試合に出られないのに無駄な特訓をしている、と亮を嗤う者もいる。
「別に、たとえ中学では試合に出れなくても高校があるだろ。それに試合に出れない奴は部活をしてはいけない、っていうのならお前のところの部員の半数以上が退部しなきゃなんなくなる。」
「ははっ!確かに。…なんか涼丞、そういうところに似てるな。」
「?」
「ああ、涼丞は会ったことないか。隣のB組のやつなんだけど、同じようなこと言われた。だからこそ、今こうやって特訓してるわけなんだけど。ほんと、滝と、それから長太郎には頭が上がんねーよ。」
「滝…ってレギュラーの?」
「そう。今の練習メニューは全部、滝が組んでくれてる。…正直言うとほんと容赦ねーからキツイんだけど。でも、その分確実に実力はついてると思う。」
チャイムが鳴って、席についた。
端の列から段落ごとに交代で国語の教科書が読まれるのをぼんやりと聞きながら、先ほどの会話内容について考える。
以前から気になっていたこと。
それは亮と滝の仲が良い、ということだ。
原作では一切そんな描写が無かったし、むしろ亮はレギュラーに返り咲くため、言い方は悪いが滝を蹴落としている。
転校してきてから亮とはそれなりに親しくしているが、話の中に滝の名前が頻繁に出て来る。
原作では氷帝の日常生については殆ど触れられていなかったので、もしかしたら元々こういう関係だったのかもしれない。
しかし、今日の話に新しい人物が登場したことで少し話が変わってくる。
―。
先ほどの亮の口ぶりから想像するに、滝や鳳とも親しいようだ。
今のところ、滝や鳳が例のマネージャーと親しくしているところは見たことが無いし、むしろ避けているように見える。
つまり亮の言う彼女がワクチンの役割を果たしたのではないか、という仮説が立つ。
『』がαかもしれない。
自然と上がる口角を教科書で隠す。
漸くだ。
漸く、近付けた。
一体どんな人物なのだろう、とまだ見ぬ『』に思いを馳せながら、今後の動き方を慎重に吟味した。
Reflection
とうとう、涼丞がヒロインに気付きました。
さて、あとはどうやって確信に変えるか。
REPLAY
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