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こちら宍戸亮臨時マネージャーです。
現在、順調に改造計画を実施中です。




010:水面下の葛藤 






レギュラー落ちした上に3年生。
「つまりもうコートに俺の居場所は無いんだよな」と言って笑った亮は寂しそうだった。
けれど、それが氷帝の方針だから、仕方がない。
大人しく後輩にコートを譲って、亮は近くのレンタルコートで練習している。

練習に付き合います、と言った鳳くんは、テニス部での通常練習を終えた後、亮の練習に付き合っていた。
本当は、通常練習の後もレギュラーは学内のコートに残って練習するのが習慣らしいけれど、宍戸亮強化プログラムを組んでから、鳳くんは強制参加の通常練習を終えたらまっすぐにこちらのコートにやってくる。

最初、亮はレギュラーメンバーの鳳くんが部活に出ないことにいい顔をしなかったけれど、新しい女子マネージャーのせいで部内の状態があれなもので、渋々納得した。
他の部員の指導も任されている萩はさすがに部活を抜けるわけにも行かず、きちんと部活を終えた後にこちらに様子を見に来ている。

そして、私はと言うと萩特製の特訓メニューが書かれたノートを片手にタイムキーパーをしたり、ビデオを撮ったり。
流石にテニスの知識が無い身では何もアドバイスはできないので、雑用を引き受けている。


今日も今日とて、殆ど無茶だと思えるような厳しい練習をしている亮と、それに付き合っている鳳くんを眺める。
素人目でもわかるほど、亮の力は伸びていると思う。


けれど。


、おつかれさま。」

「…萩。私は何もしてないよ。萩の方こそ、おつかれさま。」

「ん。ありがとう。お隣、失礼しますよー。」

「どうぞー。」


さらり、と綺麗に切り揃えられた髪が揺れる。
私の隣に腰を下ろすと、萩は小さな声で呟いた。


「宍戸や俺はさ、跡部みたいに天性のものを持ってるわけじゃないんだよね。」

勿論、天性の才能を持っていたり、鳳みたいに身体的に有利なものを持っていても、練習を怠ってたら意味が無いんだけど。と、萩は続けて呟く。


「でもさ、今回負けたことで一回り大きくなったと思うんだ。メンタルを強くする、っていうのはなかなか難しい。けど、宍戸は上手く乗り越えて成長して、今度は技術面もそれに追いつこうとしてる。」


練習メニュー、あれでも容赦無く組んだんだけど、食いついてくるところは流石宍戸だよね、と笑った横顔は少し寂しそうで。


「今のレギュラーで、一番弱いのは俺だ。」



封印していた記憶がフラッシュバックする。
ネットを挟んで向かい合う二人。
ぼろぼろの姿で再び勝利した彼と、敗北する彼。


「明日、宍戸と試合をする。」


ざぁっ、と風が吹いて、コートを囲む桜の木々が揺れる。


わかっていたのだ。
亮が頑張ってレギュラーに返り咲く為には『誰か』がレギュラーから外れなければならない。
そしてその『誰か』になる可能性が一番高いのが自分だと萩が自覚していることも、甘んじて勝負を受けようとすることも。
すべて承知の上で、私は萩に作戦参謀を頼んだ。

そして、萩も私が結果を予想して、それでも亮をけしかけたことに気付いている。


「ねぇ、萩。私は謝らないよ。」

「うん。」

「謝らないけど、試合の後にサンドバックになる覚悟ぐらいはできてる。」


原作通りに話がすすめば、亮は萩に試合を挑み、萩は負けてレギュラーを退く。
私は、テニスのことはわからないけれど、強い者が試合に出る、というのには納得している。

萩よりも亮の方が強いなら、亮がレギュラーに戻るべきだ。

それは、萩の方が私なんかよりもよっぽど理解している。
この二年間、一緒に過ごしてきたから、萩が自分に厳しく、そしてテニスに対して誠実であることを知っている。

けれども萩と亮と3人で過ごす時間が好きだ。

原作では試合後のふたりのやりとりは描かれていなかったけれど、もしかしたら萩と亮の間に遺恨が残っていたかもしれない。

強い氷帝テニス部を作ることに異論は無い、けれども私の居場所も守りたい。

そのために、試合前にお互いが覚悟を決めて欲しかった。
つまりは私のエゴなのだ。
私は、今の居心地の良い3人の関係を壊したくなかった。
だから、理性的な萩の優しさに甘えたのだ。

私は狡いのだ。

けれども、ここで謝って萩に許しを乞うのは間違っている。
萩がテニスに対して誠実に向き合って出した結論に傷を付けたくない。
私が私の居場所のために考えたのと同じくらい、萩も自分やテニス部のことを考えたに違いない。
あくまで結論を出したのは萩自身だ。
だから私は萩と同じだけの誠実さを以てして、結果を見守ることが正しいのだと思う。



「サンドバックか…!それは楽しみだね。でもね、勿論わざと負けてやる気はないよ?本気で、ぶつかってくる。」


俺だって、遊んでたわけじゃないしね、と笑った萩の顔は穏やかで。


「さて、それじゃあ対戦相手に正式に申し込んで来ようかな。」

「まだ言ってなかったの?」

「うん。先にマネージャーにアポイントメントをとっておかなきゃと思って。」


とぼけたような口調で言う萩が面白いので、私ものってしまうことにする。


「なるほど。一理ありますね。」

「でしょう。というわけで、取り次ぎ、お願い出来ますか、マネージャーさん?」

「はい、よろこんでー!」

「うん。まるで居酒屋のようなノリだね。」

「まさか萩に通じるとは思わなかったよ。」




願わくは、もう少しこのままで。













Reflection


決意する滝さん。
そして色々と考えるヒロイン。
みんな、今の関係が愛しくて壊したくない。
私も色々と考えながら書いています。
大切にしたいシーン。


REPLAY
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