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どうしようもないくらいショックだった。


けれど、一番悔しいのはあの人だってわかってるから。




009:挫折 
【鳳長太郎】





宍戸さんが負けた。
そして、氷帝は都大会優勝を逃した。

それは予想外の出来事であり、俺もショックだった。
けれども、いま一番ショックを受けているのは間違いなく宍戸さん本人だ。


月曜日の朝練に宍戸さんの姿は無かった。


―敗者切捨。

それが氷帝のシステムだとわかっていた。
わかっているし、後輩の俺がこんなことを思うのも失礼なことだと思う。
それでも、宍戸さんが心配だった。
気になって、図々しいと承知で昼休みの茶道部部室に足を運ぶ。


迎えてくれた先輩たちの中に、宍戸さんの姿は無かった。


「ねぇ。萩 、鳳くん。」

「なに?」


箸を置いた先輩は首を傾げる。
綺麗な髪がさらりと揺れた。


「亮の姿が見えないのだけれど。連絡しても返事が無いし。何か知らない?」

「ああ。多分、試合に負けて拗ねてるんだよ。学校も来てないみたいだし。」

「滝さん!そんな言い方!」


あんまりな言い方に思わず声を荒げる。
けれど、滝さんの反応はあくまで淡々としている。


「別に間違ってないと思うけど。それより鳳、袖のボタンとれかかってるよ。」

「ほんとだ。つけなおしてあげる。脱いで。」


先輩に言われるがまま、素直に上着を脱いで渡す。
ぐらついていたボタンは、ぷちん、と引きちぎられて、糸がほどかれていく。
ぼんやりと器用に動く手元を眺めながら、小さく溜息を吐いた。


「鳳は、俺たちの対応が冷たいって思ってるでしょう?」


穏やかな口調で問いかけられた質問に素直に頷く。
普段は憧れるほど仲が良いのに、悩んでいるであろう宍戸さんを放っておく2人がよくわからなかった。


「でも、これは宍戸の問題だから。俺は頼られたら相談にものるし力も貸すけど、今は多分、ひとりで落ち込みたいんじゃない?俺だったらそっとしといてほしいし。」

「でも、まぁこれでも私たちも心配してるんだよ?ただ、亮とは長い付き合いだから。」


くるくるとボタンに糸が巻きつけられていく。
こちらを見やる2人の顔は穏やかで。


しっかりとボタンのつけ直された上着をお礼を言って羽織る。
俺の知らない一年を3人は過ごして来たのだ。
2人の気持ちも考えずに勝手に腹を立てたことに反省する。


...反省したのだが。



「でもまぁ、腹は立ったよね。」

「ほんと。連絡も寄越さず、顔を出さないなんて、俺たちの身にもなってほしいよ。 」


にこにこと笑ってはいるが、2人の台詞は先ほどと打って変わって棘がある。
心なしか、 空気も冷たい。


「これはお呼び出ししなければ私たちの気が済まないよね。」

「うん。明日の昼休みだね。」


そう言って頷き合うと、先輩は携帯電話を取り出してメールを打ち始めた。
行儀が悪いと承知で、隣から内容を盗み見る。



『明日の昼休み、茶道部部室にて待つ。拒否権はない。よって返信不要。』




…先輩、これではまるで果たし状です。


今度は別の意味で宍戸さんが心配になってしまった。










Reflection


大切だからこそ、信用してるし心配だってします。
積み上げてきた二年は伊達じゃない。

REPLAY
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