宍戸さんが負けた。
そして、氷帝は都大会優勝を逃した。
それは予想外の出来事であり、俺もショックだった。
けれども、いま一番ショックを受けているのは間違いなく宍戸さん本人だ。
月曜日の朝練に宍戸さんの姿は無かった。
―敗者切捨。
それが氷帝のシステムだとわかっていた。
わかっているし、後輩の俺がこんなことを思うのも失礼なことだと思う。
それでも、宍戸さんが心配だった。
気になって、図々しいと承知で昼休みの茶道部部室に足を運ぶ。
迎えてくれた先輩たちの中に、宍戸さんの姿は無かった。
「ねぇ。萩 、鳳くん。」
「なに?」
箸を置いた先輩は首を傾げる。
綺麗な髪がさらりと揺れた。
「亮の姿が見えないのだけれど。連絡しても返事が無いし。何か知らない?」
「ああ。多分、試合に負けて拗ねてるんだよ。学校も来てないみたいだし。」
「滝さん!そんな言い方!」
あんまりな言い方に思わず声を荒げる。
けれど、滝さんの反応はあくまで淡々としている。
「別に間違ってないと思うけど。それより鳳、袖のボタンとれかかってるよ。」
「ほんとだ。つけなおしてあげる。脱いで。」
先輩に言われるがまま、素直に上着を脱いで渡す。
ぐらついていたボタンは、ぷちん、と引きちぎられて、糸がほどかれていく。
ぼんやりと器用に動く手元を眺めながら、小さく溜息を吐いた。
「鳳は、俺たちの対応が冷たいって思ってるでしょう?」
穏やかな口調で問いかけられた質問に素直に頷く。
普段は憧れるほど仲が良いのに、悩んでいるであろう宍戸さんを放っておく2人がよくわからなかった。
「でも、これは宍戸の問題だから。俺は頼られたら相談にものるし力も貸すけど、今は多分、ひとりで落ち込みたいんじゃない?俺だったらそっとしといてほしいし。」
「でも、まぁこれでも私たちも心配してるんだよ?ただ、亮とは長い付き合いだから。」
くるくるとボタンに糸が巻きつけられていく。
こちらを見やる2人の顔は穏やかで。
しっかりとボタンのつけ直された上着をお礼を言って羽織る。
俺の知らない一年を3人は過ごして来たのだ。
2人の気持ちも考えずに勝手に腹を立てたことに反省する。
...反省したのだが。
「でもまぁ、腹は立ったよね。」
「ほんと。連絡も寄越さず、顔を出さないなんて、俺たちの身にもなってほしいよ。 」
にこにこと笑ってはいるが、2人の台詞は先ほどと打って変わって棘がある。
心なしか、 空気も冷たい。
「これはお呼び出ししなければ私たちの気が済まないよね。」
「うん。明日の昼休みだね。」
そう言って頷き合うと、先輩は携帯電話を取り出してメールを打ち始めた。
行儀が悪いと承知で、隣から内容を盗み見る。
『明日の昼休み、茶道部部室にて待つ。拒否権はない。よって返信不要。』
…先輩、これではまるで果たし状です。
今度は別の意味で宍戸さんが心配になってしまった。
Reflection
大切だからこそ、信用してるし心配だってします。
積み上げてきた二年は伊達じゃない。
REPLAY
Copyright c 2012 Minase . All rights reserved.