「妃芽花。」
「なぁに?」
「今日は試合の流れを覚える程度で構わない。スコアとサポートは他の奴に任せてあるから安心しろ。」
「わかった。ありがとうね?」
転校初日に劇的な出会いをしてから、跡部くんはずっと私に良くしてくれる。
やっぱり愛され逆ハーレムって素晴らしい!と思いながらも、跡部くんだけにベッタリにならないように、いろんな部員に話しかけて、今ではすっかり氷帝テニス部のマネージャーとしての立ち位置をキープしてる。
頬をうっすらと染めた跡部くんは魅力的だし、たぶん私に恋してくれてるんだと思うけど、私はたくさんに愛されたい。
我儘だけど、それが叶うんだから、仕方ないでしょ?
天使さんに念入りにお願いした甲斐あって、女の子たちにイジメられる心配もないし、順調。
これから夢にまで見たみんなと会えるんだなぁ、と思うと幸せで楽しみでたまらない。
「キヨ?自分とこの試合はどうしたんだ。」
「相手校が棄権しちゃってさ。今日は俺の出番無し。拍子抜けしちゃったよ。そんで、ヒマだったから敵情視察。」
モブの部員が相手校と打ち合っているのをぼんやりと眺めていると、後ろから聞きなれた声。
この声は間違いようがない。
だって、私、飽きるくらいに何度もアニメを見返してたんだもの。
くるり、とこっそり振り返ってみたら、やっぱり予想通りのオレンジ色の頭。
隣にいるのは私より少し前に転校してきたらしい、藤堂くんだ。
彼も凄くカッコよくて、気になっている。
テニス部じゃなくても、やっぱり漫画の世界の男の子はカッコいいんだなぁ。
私服姿の今も、センスが良くってとっても素敵。
できれば彼ともお話してみたい。
なんて声をかけようかなぁ、と考えながらじっと見つめていると目が合った。
そのまま、逸らさずに見つめ続ける。
「…何か、用かな?」
話かけてきてくれたのは、オレンジの髪の彼の方だった。
「あっ、ごめんなさい。綺麗な髪だなぁ、と思って。初めまして。私、妃芽花。美濃海妃芽花、っていうの。」
できるだけ可愛く見えるように意識して話す。
病院にいる間、毎日ヒマで鏡を見て過ごしていたので、こういうのは大得意。
「…あ、ああ?えっと、初めまして。俺は千石清純だよ。」
予想通り。
やっぱりキヨだった。
取り敢えず、名前をゲットしたので「キヨ、って呼んでもいい?」と聞いたら、照れながら頷いてくれた。
…でも、キヨってこんな感じだったっけ?
もっと女の子に積極的だった気がするんだけどなぁ。
「あと、その…おとなりのあなたは藤堂くん、だよね?」
「…ああ。知ってるみたいだけど、藤堂涼丞だ。」
少し気だるそうに喋るのがカッコいい。
…照れているのか、クールキャラなのか、さっきから全然目を合わせてくれないのが少し不満だけど。
「…それより、いいのか?跡部の試合、始まるぞ。」
慌てて視線をコートに戻すと、跡部くんが対戦相手と向い合っていた。
やっぱり、コート上の姿、すごくカッコいい。
巻き起こる氷帝コール。
私も一緒に叫びながら、望みどおりの世界に来れた喜びを噛み締めていた。
Reflection
ヒロインよりも先に妃芽花さんと接触してしまった涼丞。
妃芽花さんは基本的に「漫画の世界だから」と思っているので大変あざといです。
乙女ゲーム気分。
REPLAY
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