αを探そうと決めた時、考えられる可能性は二つに一つだった。
一つは、前世の記憶や知識を目一杯活かして、華々しい学園生活をおくっているパターン。
もう一つは、特権をひた隠しにして敢えて地味な生活をおくっているパターン。
前者ならば転校してから数日で見つけ出せていたと思うが、αはどうやら俺と似たような思考の持ち主らしく、地味に大人しく氷帝で生活しているようだ。
正直、前世を活かして派手な生活をおくっているような人物なら、あまり食指が動かなかったと思うので、αが後者の傍観タイプの人物だったことは嬉しかった。
しかし、それは同時にαを探すというミッションの難易度が上がったことを示している。
そもそも、俺は相手の容姿や名前は愚か、性別や年齢すら知らないのだ。
当初は考えていなかったが、もしかしたら生徒でなく教師や誰かの兄弟姉妹の可能性もあるし、下手したら父親や母親になっているかもしれないのだ。
意外と絞れた気になっていたが、こう考え始めると範囲はまだまだ広い。
可能性を考え始めるとキリがないので、取り敢えず、氷帝学園に通っている人物のなかにαがいる、と仮定して的を絞ることにして、作戦を練ることにした。
そこで、考えついたのが「此方から見つけ出せないのなら相手に見つけてもらおう」という半ば自棄のような戦法だった。
αにも「逆ハーレム狙いの人物」がこの世界に入り込んだということは伝わっているはずだ。
それを利用して、俺が「逆ハーレム狙い」であるかのような怪しい行動をとるようにすれば、あちらから何か接触をしてくるかもしれない。
要は、自らを囮にしてαを引き寄せようという、我ながら安直な発想だった。
ポイントは、あくまでαに確信させないよう、長く疑われるようにすることだ。
俺を疑っている人物を探さねばならないわけだから、「怪しいけれどもまだ断定できないから、もう少し様子を見てみよう」とαに思わせて、相手の注意を引きつけていなければならない。
インパクトを与えるために、日常生活には全力で取り組む。
しかし、登場人物たちには不自然に近寄らない。
この2つをルールに据えて、行動を開始した。
しかし、何の手掛かりも掴めていない矢先に。
「美濃海さん、可愛いよなぁ。テニス部は毎日会えるんだろ、羨ましい。」
「でも、レギュラーに囲まれてて、あんまり話せないんだよなぁ。」
「それでも一緒にいられるだけいいだろ。」
昼の学食。
目の前に座って喋っているクラスメイト達を眺めながら溜息を吐く。
…なんでそんなにわかりやすい登場をしてくれたのだ、美濃海妃芽花。
誰がどう見ても彼女が「逆ハーレム狙いの人物」だというのは疑う余地がなかった。
あれだけ全員に好かれていたら、気持ち悪い。
人間、性格の合う合わないがあって、それでもうまく関係を構築しながら生きていくものだ。
それが、いくら容姿が優れているからと言って、周囲の全員から自分の存在を全肯定されて、ちやほやと甘やかされているのは何だか他人事ながらも気味が悪い。
女の子の願いというのはよくわからないものだ。
理解しがたい。
案外あっさりと見つかってしまったので拍子抜けだが、もとより興味がなかったので、別にどうでも良い。
ただ問題は本命の方だ。
慎重にギリギリ疑われそうな行動をとっていた俺の努力は『ホンモノ』の登場で台なしになってしまった。
またイチから新しい作戦を建てなおさなければならない。
しかし、思いつかない。
何せ手掛かりがないのだ。
第一、氷帝で過ごしているだろう、というのも不確実なわけで。
…一つが上手く行かなくなると、全てに対して疑念を抱き始めて思考が暗くなりがちだから良くない。
遠く、跡部と忍足に挟まれて嬉しそうにオムライスをスプーンで運ぶ美少女を恨めしく思いながら、すっかり冷めてしまった珈琲を飲み干した。
Reflection
妃芽花さんの登場で困っている人物がここにも一人。
涼丞の目的はあくまでα探しなので、妃芽花さんの登場は大きな痛手です。
やはりなかなか出会えません。
REPLAY
Copyright c 2012 Minase . All rights reserved.