帰宅して、ベッドに倒れ込む。
本当は、皺にならないうちに制服を脱ぐべきなんだけど、もう少しだけ。
NOVAが探している『イレギュラーな人物』。
ミラいわく、逆ハーレム狙いの憑依主人公らしく、性別、年齢などは謎。
でも、必ず登場キャラに接触するはずなので、注意してみていて欲しい、と言われた。
そのタイミングでやってきた編入生。
一度だけ遠目に見たけれども、かなり整った容姿をしていた。
その上、帰国子女で勉強もできるらしい。
怪しい、と思った。
件の人物、藤堂涼丞は男だけれども、世の中すべての人間がヘテロ・セクシュアルでは無い。
だから、男の子としてこちらの世界で逆ハーレムを築こうとしている可能性も大いに有り得る。
それに、整った容姿や高い能力値は物語の主人公につきものだ。
もしも私が『イレギュラーな人物』の立場で逆ハーレム状態を築こうと思ったら、すべてのパラメータを上限まで上げる。
つまり、今の藤堂涼丞の状態になるだろう。
案外あっさり見つかってしまったことに拍子抜けしつつも、念のためこっそり観察していたのだが。
何かおかしい。
一向に、登場人物と関わろうとしない。
物語の主人公になり得る要素をたくさん持って編入してきた割には、彼は大人しく学生生活をおくっていた。
テニス部に入部する様子も、生徒会に入ろうとする様子も、見られない。
始業20分前に登校して、放課後はときどき図書館に寄るものの、基本的には直帰。
いい加減着替えよう、とのそのそとブレザーに手をかけ、ハンガーを手に取る。
ブラウスのボタンを外しながら、思考は再び謎の編入生に戻る。
私が浅慮だったのだろうか。
もしかしたら、彼は単なる編入生なのかもしれない。
でも、こんなタイミングであんなに怪しい人物が他にも登場するなんて。
もしかしたら、私が知らないだけで彼ももともとの物語の登場人物だったりするのだろうか。
考えても、考えても、わからない。
まだ一週間しか経っていないし、相手も様子見の段階なのかもしれない。
私が頼まれたのは、「怪しい人物」をみつけたら報告するだけで、何も行動を起こせとは言われていない。
もやもやするけれど、一旦この問題は置いておいて、まだ観察を続けよう、と結論を出したところで、携帯のバイブ音が響く。
光からのメールだった。
時間的に、まだ部活中のはずなのに、こんなことをしていて良いのだろうか、と思いながら読むと、画像つき。
「…そっか。」
そこに写っていたのは、西のスーパールーキーの姿で。
少しずつ薄まっていた記憶の中から、彼の情報がするすると出てくる。
彼が入学した、ということはいよいよ始まるのだ。
特に何かしよう、というつもりは無い。
これから始まる試合の数々は、彼らの問題。
でも、前世の記憶を持たずに、結果を知らない状態の純粋な気持ちで見ることができていれば、と思ってしまう。
ボタンを操作して、真面目に部活しなきゃ駄目でしょ、と短い返信を送る。
すぐにバイブ音が鳴って、「新入生のせいで真面目に部活どころじゃない」と返ってきた。
どうやら、西のスーパールーキーは大暴れらしい。
中断していた着替えを済ませて、大きくひとつ、深呼吸をした。
藤堂涼丞のことにしたって、今後の展開のことにしたって、なるようにしかならない。
生まれ直した以上、ここは私の世界だし、私の人生は私のものだ。
何をしてはいけない、とか何をすべきか、なんて全て私に委ねられている。
うだうだ考えて、悩んでいても仕方がない。
好きに生きて、見守っていれば良い。
第一、人のことまで考えて暗くなるなんて私らしくないのだ。
すっきりと割りきって、今は取り敢えず借りてきた本を読もう。
光には、後から電話してみよう、と決めてハードカバーの表紙を開いた。
Reflection
ヒロインは涼丞を疑っています。
しかし、どうも腑に落ちない。
西では金ちゃんが入部してきて大わらわです。
REPLAY
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