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「ねぇ、。そっちのクラス、もう数学の小テスト終わった?」


「さっき終わったよ。問題、見る?」


「ありがと。その代わり、これ英語の小テスト。英作は思ってたより少なかったよ。」


「それ、俺も後で見せてくれ。あ、あと社会は抜き打ちテストがあったぞ。前回のプリント、予習しといた方が良い。」




005:噂の編入生 
【滝萩之介】







新年度になって、3人のクラスは離れたものの、相変わらず昼食は茶道部部室で一緒に摂っている。
クラスが別々、というのは不利な面ばかりでなく、こうして授業やテストに関する情報交換ができるので、便利でもある。


「そう言えば、新入部員は入った?」


珍しく市販のパンを齧っていたに尋ねてみる。


「うちは相変わらず、幽霊部員候補ばかり。テニス部はどう?すごい数なんじゃないの?」


やはり、関東の強豪校というだけあって、テニス部の入部希望者は毎年、すごい数だ。
けれども、それと同じくらい途中退部者も多い。
何せ、人数が人数なので入部者全員はとてもじゃないけれど試合には出れないし、コートは実力順で埋まっていく。
下手をすると、入部以来ずっとコートに入れないまま終わる部員だっているのだ。


「仮入部だけですごい数だよ。でも、半分はひやかしかなぁ。」


「いるんだよな、毎年。」


中学生とは言え、跡部のテニスはトップレベルだ。
間近で観てみたい、という理由だけでちょっと仮入部してみよう、という新入生も多い。


「跡部は気にしてないみただけどね。」


基本的に、注目されるのを厭わない男だ。
入部しようが、しまいが、どうだって良いらしい。


「あ、そう言えば。楓の弟がたぶん入部するはずだよ。」


「木崎さんの?」


「奏多くんって言うんだけど。テニスがすっごく好きみたいで。」


「へー。楽しみだな。木崎の弟なら、きっと元気が良いんだろうな。」


木崎さんと言えば、黒木の彼女だ。
とはまた違った意味で付き合いやすい、サバサバとした女の子。


「顔も割と似てるよ。意識して探したら、すぐみつかると思う。」


落ち着いたら、私も観察するよ、と言うの観察場所は十中八九交遊棟の二階。
いわく、顔を見たいわけじゃないので全体が見渡せる交遊棟の二階が見やすくて人も少なくてベストらしい。
テニス部員としてはありがたいが、友人としては少し複雑だ。


「そういえば、滝。明日の昼休みはレギュラーだけでミーティングする、って跡部が言ってたぜ。授業終わったらすぐ部室だって。」


「てことは、弁当持ちか。長引きそう?」


「そろそろ試合のメンバー編成も考えなきゃなんねーしな。昼休みいっぱい使う気だろ。」


新入部員のことばかりでなく、春から順に始まる試合や練習試合のことも考えていかなくてはならない。
今年は最高学年なので、今まで先輩たちに任せてきた事務的な問題も背負っていかなくてはならないのだ。
正直、そういう戦略を練る作業は嫌いでは無いので、俺自身は構わない。
しかし、とにかく体を動かしたい宍戸のようなタイプからすれば、面倒でしかないのだろう。
表情が目に見えて嫌そうだ。


「そういうわけで、明日はお昼いっしょに食べれないや。ごめんね。」


「まぁ、ひどい。二人とも私を置いていくのね…。」


台詞のノリは良いのに見事なまでの棒読み。


なら別に参加しても良いけど?騒いだりしないだろうし。」


「安心しろ。跡部から主席の座を奪った人間だ、って言えばノーアポで参加できる。」


冗談めかして行った言葉に宍戸も援護射撃を加える。


「遠慮する。」


うんざり、という顔で即答したが面白い。


「明日は一人寂しく食べてね。」


「二人とも、性格悪くなったよね。」


拗ねたように言いながら、食べていたパンの袋をくしゃくしゃと丸めると、はうらめしそうにこちらを見た。
しかしそれも、決して本気じゃなくて遊び半分だとわかっている。
こうやって、お互いになんの気兼ねなく巫山戯て笑い合える関係は心地よい。


「二人とも、って俺まで一緒にするなよな。性格は滝のほうがだいぶ黒い。」


「それは確かにそうだけど、亮も最初の頃に比べたらだいぶ性格が悪くなったよ。…まさか、萩の影響?」


「きっとそうだ…。知らず知らずのうちに伝染ってたに違いない。」


「人聞きの悪いこと、言わないでくれるかな。宍戸の性格が意外に悪いのは潜在能力だよ。」


勝手なことを言って、盛り上がっている二人に釘を刺す。


「そろそろ、教室戻らないと。は次、移動教室でしょ?」


「そう。今日は実験なんだよね。スムーズに進むと良いなぁ。」


「うちのクラスは午前中にやったけど、それほど難しくなかったぜ。」


理科室へ向かったと別れ、宍戸と二人で階段を登る。
と、上から降りてきた人影はここ数日噂になっている人物のもので。


「藤堂、もう授業はじまるぞ?」


「その授業の先生に頼まれて、資料室に向かうとこ。運悪く捕まった。」


小さく肩を竦める仕草まで様になっている。
宍戸の「手伝うか?」と言う言葉に小さく首を振ると、迷いなく資料室へ歩いていった。


「そういえば、同じクラスだったんだね。噂の編入生。」


「ああ。良い奴だぜ。頭いいし。」


ちらっと見ただけだったが、噂に違わず綺麗な顔をしていた。
跡部とはまた違ったタイプの、楚々とした感じの顔立ち。
宍戸が太鼓判を押すくらいだから、性格も良いのだろう。


「あ、滝。言い忘れてたけど、明日の昼のミーティングで決まった内容は、放課後にレギュラー以下の部員に伝達するらしいぜ。」


「…いつもどおり、細かい説明は任せる、って言われるんだろうね。」


ミーティング内容を伝達する時の説明係として抜擢されることが多い。
今回も、話し合ったことを噛み砕いて説明するのは俺の役目になりそうだ。


「ま、手伝えることがあったら言えよ。」


「ありがとう。」


じゃな、と自分のクラスに入っていった宍戸を見送りながら、廊下を早足で進む。
新学期早々なかなかに忙しい。

テニス部は今年こそは全国で結果を残そうと皆一丸となって練習に取り組んでいる。
自分も、出来る限りのことはやりたい。


危うくテニスのことでいっぱいになりそうだった頭を授業モードに切り替えると、チャイムの音を聞きながら席についた。






Reflection

今回は滝くん視点。
相変わらずの仲良し三人組。
REPLAYでの滝くんは副部長的な立ち位置です。

REPLAY
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