ツッコミはもはや条件反射。









「あ。」

「あーあ。」

「残念。」





005:噂の編入生 
【宍戸亮】







春休みが終わり、とうとう3年生になった。
中学生活最後の年。

いつもの3人でクラス分け掲示を見ていたのだが。


「今年は見事に3人バラバラだね。」


「あーあ。空気呼んで最後の一年くらい一緒にして欲しかったよね。」


「いや、空気呼んでクラス替えとか、ありえねーからな。」


仕方なさそうに肩を竦めるに、無茶苦茶なことをさらりと言ってのける滝。
最終学年になる、ということはこの二人とつるむようになってから、二年が経つわけで。


「まぁ、クラスは離れたけれど、今年もよろしくお願いします?」


「こちらこそ?」


「なんで疑問形なんだよ。」


出会って間もない頃に一方的に任命されたツッコミ役が最近では板についてきてしまっている。
そのことを喜んで良いものか。
…気分としては複雑だ。


「そう言えば、二人とも春休みはいかがお過ごしでした?」


「相変わらず、テニス漬けの毎日をお過ごしになりましたよ。」


「…ほぼ毎日登校してたな。は?大阪、帰ったのか?」


空気を読まずに普通の口調で返すと、滝に不満そうな顔をされたが、恥ずかしげなく流れにのれるほどの豪胆さは俺にはなかった。


「それが、今年は従弟も忙しいみたいで、結局帰らなったんだよね。その代わり、楓のお家にお泊りに行ったけど。でも、会いたかったな。」


しゅん、としおれたように落ち込んだを滝が頭を撫でてなだめる。
またすぐ会えるだろ、と言うとしょぼくれた顔をしながらも、頷いた。
普段は大人びてしっかりしているくせに、ときどき子どもっぽくなるから面白い。


「ほら、そろそろ行くぞ。始業式から遅刻じゃかっこつかねぇぜ。」


今年もまた、ボールを追いかける季節が始まる。
そう考えると、胸が沸き立つ思いだ。






◇◇◇◇◇



新学年に上がってから一週間が過ぎ、授業のペースに漸く体が慣れ始めた。
長期休暇をはさむと、どうも集中力がもたなくなって困る。
テニスなら、年中無休で試合中の集中を切らすことは無いのに、授業となると一気に睡魔や他ごとへの興味を断ちきれなくなるのはなぜだろう。
小さな溜息をこぼしながらコートサイドのベンチに向かうと、そこは井戸端会議会場と化していた。


「でな、その編入生。どうやら帰国子女らしくて。容姿が整ってる上に帰国子女なんて反則や!」


「俺も見たCー。サッカーじょーずだった。」


「クソクソ!跡部二号かよ!」


誰の話をしているのかは明確だ。


藤堂涼丞。


珍しく、三年から氷帝に編入してきた男子生徒。
どうやら、編入前は神奈川の立海に通っていたらしく、全国王者の学校からの編入生に一時期テニス部はピリピリしていた。
…まぁ、藤堂自体はテニス部志望でもなんでもなかったので、すぐに緊張は解けたのだが。

しかし、だからと言って藤堂が何の特徴も無い生徒か、と聞かれたら大きく首を横に振らなければならない。


手足が長くスラッとした長身に、整った顔。
低すぎない、艶のある声。
噂では編入テストで満点を叩き出したほどの頭脳。

とにかく、何から何まで規格外だった。

そして、その規格外の男と宍戸亮は同じクラスに振り分けられている。


「跡部を最初に見た時、こない完璧な人間そうそうおらんわ、って思たんやけど噂の編入生さんはその跡部とタメ張るんちゃうか。」


そのへん、どうなん?と興味津々の忍足に聞かれて、素直に思ったことを述べる。


「確かに、なんでも出来る奴だと思うけど、跡部と違ってあんまり前に出るのは好きじゃねぇみたいだぜ?」


クラス替え直後の自己紹介も、必要最小限の簡素なものだったし、容姿レベルも能力値も高いがゆえに目立っているが、本人の行動は至って普通だ。
そう正直に言うと、興奮したように忍足がまくしたてた。


「それやねん!そのクールな態度がより一層好印象を与える、言うんか、まぁ確信犯やったら相当の策士やで!」


「…普通そんなことまで考えねーだろ。」


「俺には自然体でアレに見えるけどな。」


呆れ気味な岳人の一言を受けて、一応クラスメイトとして俺も否定する。
ジローは話に飽きたのか陽気にあてられたのか(多分両方だ)眠ってしまった。
そうすると、忍足の矛先は自然とまだ口を開いていない残った一人に向けられるわけで。


「なぁ、日吉はどう思う?」


話を振られた後輩は、一応は柔軟をやめて振り向いた。
無言ではあったが、話は聞いていたらしく、聞こえよがしにため息をつく。
日吉が無愛想なのは通常運転だ、と昨年一年間でしっかり思い知ったので、誰も気にしない。
呆れたような冷たい視線を突き刺して、相変わらず容赦のない言葉を吐く。


「2年生の俺が、来たばかりの3年の編入生のことなんか、わかるわけないでしょう。忍足さん、春休みボケですか。」


いっそ手を叩きたくなるくらいの毒舌っぷりである。
鳳に言わせれば、「本当に不機嫌なときは口すら開かなくなるから、喋ってるうちはまだセーフ」らしいが、忍足はべっこりと凹んでいる。
恐らく話題に入れていない日吉への、忍足なりの気遣いも多少は含まれていたんだと思うが、全く効果がなかった。
完全に飛び込み損である。

柔軟の仕上げとばかりに大きく伸びをした口の減らない後輩は、とどめとばかりに最後にもう一言吐き捨てる。


「でも、ひとつ言わせていただくと、男の嫉妬は見苦しいですよ。」



…今度こそ完全に心を閉ざした忍足を横目に、晴れた空を仰いだ。






Reflection


とうとう3年生になりました。
ついに原作に突入です。
おそらく今頃、青学ではリョーマくんが荒井先輩からボロボロラケットの洗礼を受けています。
そんな中、氷帝テニス部は相変わらず。
みんな噂話がだいすきです。

REPLAY
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