終業式を終え、いよいよ新しく建った新居に引っ越すことになった。
「お手伝いしたいけれど、あんまり人数が多くてもかえって邪魔になるから、清純を派遣するわね。」
というおばさんの気遣いにより、両親と俺+キヨwith引越し業者で朝から新居を整えている。
「この箱で最後です。」
「ありがとうございました。」
トラックからの荷下ろしが無事に終わったのは昼過ぎ。
「ねぇ、涼丞。悪いんだけれど、キヨくんと一緒にお昼ごはん買ってきてくれないかしら?」
「了解。なんでもいい?」
「ええ。そんなに急がなくていいから、二人で気分転換がてら、行ってきて。キヨくん、なんでも好きなもの買ってきていいからね。」
「わぁー!ありがとうございます。昼からもしっかり働いちゃいます。」
周辺にどんな店があるのかまだよくわかっていないので、探検しつつ駅前付近まで出てみることにした。
家から最寄りの駅までは俺とキヨの足で徒歩15分くらい。
家の近くにはバス停もあって、割と交通の便は良い。
「高級住宅街、って感じだよね。」
「キヨの家も人のこと言えないだろう。」
俺の父も、キヨの父も、それなりの収入をもらっていて、一般の中学生よりは恵まれた生活をさせてもらっている。
そもそも、テニスなんて本気でしようと思えば結構お金がかかるのだ。
週末の趣味や軽い部活程度でなく、キヨのようにジュニア選抜に出たりスクールに通ったりすると、ラケットも1本や2本じゃ足りないし、服も大量に必要になってくる。
シューズも寿命が短いし、遠征費だって馬鹿にならない。
前世が社会人だった分、お金を稼ぐことの大変さは普通の中学生よりはわかっているつもりだ。
だからこそ、キヨや俺の父のことはとても尊敬している。
かっこいい。
「…涼丞、聞いてる?」
「いや、聞いてなかった。」
考え事をしている間にキヨに話しかけられていたらしい。
正直に聞いていなかったと告げると、呆れたように肩を竦められた。
「ねぇ、なんで氷帝にしたのか、聞いていい?」
この間、病室で立海メンバーにした説明をそのまま繰り返すと、「カリキュラムが面白そうだったから」だ。
しかし、本当はそれだけじゃなくて。
「たぶん、会ってみたい人がいるから。」
「たぶん?」
「ああ。まだいると決まったわけじゃないけど。いるかもしれない『会いたい人』に氷帝で会えるかもしれない。」
カペラから所謂『逆ハーレム狙いの人物』が入り込んだ、と聞いた時に、まっさきにその潜入先として思い浮かべたのは氷帝だった。
だって氷帝にはあの跡部や忍足がいて、『前世』では女子人気が一番高かった。
次点が立海、青学あたりだろうか。
地方にも学校はたくさんあるが、『逆ハーレム』を狙うなら学校のかたまっている関東圏にやってくると考えるのが無難だろう。
ならば、最優先で調べなければならないのは氷帝だ。
立海には友人が出来たし、青学には幼馴染が入学する予定なので、情報は仕入れやすい。その上、山吹にも従弟がいる。
氷帝にコネをつくれば、関東圏はあらかた網羅できる。
しかし、カペラが俺に調べるように言ったのは『青学』だった。
なぜか。
答えはおそらく『氷帝にはすでにコネがある』からだ。
つまり、もう一人の被験体、『α』が氷帝学園に通っているのではないか。
正直、『逆ハーレム狙いの人物』なんてどうだっていい。
絶対に見つけるよう厳命されたわけでもないし、偶然出会ったら報告しよう、くらいにしか思っていない。
だいたい、興味がわかないのだ。
別に俺自身に迷惑をかけず、キヨやリョーマ、立海の友人たちに悪影響を及ぼさないなら、好き勝手にハーレム三昧の日々をおくってくれて構わない。
どうせ、NOVAに見つかり次第排除されるのだから、短い夢くらい自由に見れば良いと思う。
嫌悪の感情すら沸かない。完全なる無関心。
しかし、『α』には興味がある。
俺と同じ境遇の人間。
知っているのは、前世と同じ容姿と名前を望んだこと、そして俺と同じく気の毒な死に方をしたということだけだ。
前世では何歳だったのか。
男だったのか、女だったのか。
こちらの世界での人生をどう受け止めているのか。
別に慣れ合いがしたいわけではないが、純粋に興味があった。
氷帝にいる、というのは俺の予想でしかないので、もしかしたら『α』は氷帝にコネを持っているだけなのかもしれない。
しかしどこにも確証はないが、なんとなく俺の勘は『氷帝にいる』と告げている。
「…涼丞さん、俺にはよくわかりません。」
「だろうな。俺にもまだよくわからない。」
流石に、キヨにすべて説明するわけにも行かず、なんだか電波系のような話になってしまった自覚はあるので、今度は俺が小さく肩をすくめる。
「まぁ、でも会えるといいね。」
「…ありがとう。」
なんとなく、今は聞く時ではないと思ってくれたのか、何事もなかったかのように話を切ってくれたキヨに感謝しつつ、昼食を買う店を決めにかかった。
Reflection
涼丞が氷帝に決めた理由が明らかに。
興味があるのはあくまでもう一人の転生者のこと。
涼丞は妃芽花さん探しを積極的に頑張るつもりはありません。
REPLAY
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