跡部景吾が学年末テストで1位の座を譲った。
その噂はあっという間に氷帝学園中に広まった。
しかも、その相手を探しているらしい。
「まずいどうしましょうこわい。」
「今日の朝練でも、心なしかピリピリしてたぜ、跡部。」
「見つかったら今までのような学園生活はおくれないだろうね。」
「いやですみつかりたくないですおそろしい。」
全く予想もしていなかった。
私の中の跡部景吾は完全無欠で、ミスなんて絶対しない、完璧な人間だ。
実際これまでは「テスト?あぁん?こんくらい満点とれて当然だろ?」とでも言わんばかりに得点してきたのだ。
目立つので関わりたくはない相手だが、私は跡部景吾をある意味信用していた。
跡部景吾という完璧な存在がいるからこそ、私が全力で取り組んで中学生としては有り得ない成績を出しても許されてきたのだ。
しかし、今回のことで防御壁はあっという間に崩れ去った。
「ほんと、どうしよう。別に何もやましいことはしてないのに。私は慎ましやかに生きたいだけなのに。」
あんなに大々的に吹聴してくれた向日岳人を恨む。
「もうすぐ春休みだし、人の噂も七十五日って言うよね。」
と折角自分を慰めたのに、
「七十五日だと、春休み明けまで引きずる計算になるね。」
にっこり微笑んで意地悪く告げる萩は絶対におもしろがっている。
「わかってるとは思うけど、ふたりとも絶対にばらさないでね。お願いだから。」
「わかってるよ。ぜってー言わねーから安心しろ。」
「大丈夫だよ。流石にそんなことしないよ。」
両サイドから、二人に慰められて少しだけ気分が浮上する。
「…あー。ところで、お前が学年トップだって知ってんの、俺達だけか?」
「萩と、亮と、あと黒木くんは知ってる。たぶん、楓も。…でも、どうして?」
「鳳には、言っちゃ駄目だよ。」
バッサリと言い捨てた萩の言葉に頷く亮。
「あいつ、ほんとに嘘がつけねーんだよ。」
「その上、割とうっかりしてるからね。念のため。」
…わからないでもない。
わからないでもないが、尊敬する先輩からそんなふうに評価されていると知ったときの鳳くんの心情を考えるといたたまれない。
しかし、これは慎重に慎重を期す必要のある、私にとっては重大な秘密だ。
「わかった。言わない。」
ごめんね、鳳くん。
心の中で謝りつつ、先生たちへ口止めも徹底しなければと頭の中で段取りを立て始めた。
Reflection
ずっと避け続けていたテニス部との距離が少しずつ近付いて来ようとしています。
ヒロインの跡部からの全力の逃走劇がスタート。
隠れ続けることが出来るのか。
REPLAY
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