跡部景吾は苛立っていた。
今まで犯したことがなかった失敗だ。
原因はいくつか思いつく。
年度末に向けて忙しかった生徒会。
ややこしい要求ばかりしてきた『恋人』。
週末ごとの『食事会』。
しかし、原因はいくつあるにせよ、結果はひとつだ。
学年一位から転落した。
単純なミスだった。
問題文を読み落として、文章題のキーワードを書きこぼした。
点数にして、マイナス1点分のミス。
自分の点数表に1点の欠落が見られるものの、順位に響くことはまず無いだろうと思っていた。
しかし、渡された成績表には初めて目にする『2位』の文字が刻まれていた。
一瞬、間違いかと思った。
しかし、半端な順位の生徒ならともかく、順位が一桁の生徒、それも自分のような毎回1位をとっているような生徒の成績表に関してこんなミスをする可能性は低い。
そうなると、自ずと結論は見えてくる。
認めたくないことに自分は負けたのだ。
誰かはわからないが、同じ学年の生徒のうちの誰かに、敗北した。
そうして、また新たな可能性に気付く。
果たして、自分はこれまで真に頂点に立っていたのだろうか。
確かに1位をとり続けていた。
しかし、成績順位を非公開にしている以上、他にも1位の人間がいた可能性も否めない。
自分が1点落とした都合のよいタイミングで誰かが満点をとったと考えるよりも、自分が1点落としたことで、いままで拮抗していた相手が繰り上がったと考えたほうが自然だ。
初めて味わう感覚だった。
単純に敗北したことへの悔しさだけでない。
今までずっと出し抜かれてきたかもしれない。
自分が『学年トップ』だと持て囃され、ちやほやされているのを横目に、全く興味のない顔で同じ順位のプリントされた成績表を受け取っていた人間がいるかもしれない。
屈辱。
その一言に尽きた。
「なぁー、跡部!お前またトップだったんだろ?点数、見せてくれよ!」
うれしそうにやってきた岳人に、隠しもせずに成績表を見せた。
赤い髪がさらりと揺れ、可愛らしいと形容される顔が驚きに染まる。
「嘘だろ…!跡部が2位なんて!」
クラス内が一気にどよめく。
「今回は不注意から1点落とした。つまり、満点のヤツが他にいたってことだろ。」
この様子だと、校内に噂が広がるのは時間の問題だろう。
正直、恥を晒すのは本意ではない。
しかし、これは宣戦布告だ。
「誰か知らないが、俺はそいつに興味がある。」
必ず、正攻法であぶり出して、見つけてやる。
そうして、どんな人間か見極めてやらなければ、この屈辱は晴らせない。
Reflection
さて、今まで噂でしか登場しなかった跡部さまがとうとう登場しました。
(しかし、ヒロインちゃんとは絡んでいません。笑)
そして、登場して早々不機嫌にさせてしまっています。
…すみません跡部さま。
嫌いなわけではないのですよ!(むしろ大好きです)
REPLAY
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