週末の千石家。
約束通りキヨに会いに行った俺は、早速切り出した。
くるくると珈琲をかき混ぜながら、わざとらしく溜息を吐いた従弟は、「なんとなく、そんな気はしてた。」と言った。
「立海から転校するなら、レベル的に一番近いのは氷帝だもんね。それに、新しい家からも近いし。まぁ、山吹に来る確率は低い、っていうのはわかってたけど。」
一緒の学校に通えないのは少し寂しいけど、涼丞が山吹に転校してきたら、確実に俺の順位がひとつ、下がっちゃうからね、と冗談めかして言う。
前世の記憶がある、という反則技で好成績を保っている俺に対して、キヨは純粋な努力ともともとの要領の良さで良い成績を常にキープしている。
テニスと勉強の両立が難しいことは想像に難くない。
本当に、努力家だと思う。
「けど、家は近くなるから今まで以上に頻繁に遊べるようになるな。」
キヨは部活で忙しくて俺に構うどころじゃないかもしれないがな、と仕返しに言い返すと、楽しそうに笑う。
「なんなら、週末の度に遊びに来てくれても構わないよ。うちはみんな、大歓迎。」
「それはありがとう。キヨも、いつでも遊びに来いよ。」
まぁ、まだ引越しも住んでないけどな、と言うと、うれしそうに頷いた。
◇◇◇◇◇
「と、いうわけで引っ越すついでに来年度から転校する。」
「…また突然だね。」
どうせなら、皆にまとめて報告したほうが良いだろう、と見舞いに行った精市の病室で告げた。
一瞬の沈黙を破ったのはやはり精市で、「あと一年くらいこっちに通えばいいのに」とパジャマ姿の肩をすくめた。
「そーっすよ!先輩、一年くらい通えばいいんっすよ!わざわざ転校することないっす!」
必死になって引き止めてくれる赤也は可愛いが、一度決めたことは変わらない。
「やめんか赤也。藤堂が決めたことだ。祝福して見送ってやるのが友人というものだろう。」
病室だからか、押さえ気味の叱責を飛ばす真田も、口では赤也をたしなめているが、目はこちらを責めている。
…わかりやすい奴め。
「差し出がましいようですが、なぜ氷帝なんですか?」
「そうだね、山吹なら千石もいるし顔が利くでしょ?」
俺とキヨの関係を知っている柳生や精市はやはり疑問に思ったようで。
「だからこそ、新しいところに行ってみる気になった。それに、資料を見たところでは、氷帝のカリキュラムが一番面白そうだったからな。」
そう言うと、納得したのか柳生は二度頷いた。
精市は「それにしても、寂しくなるね」と呟きながら、完全に拗ねてしまった赤也とぶすくれた真田を微笑ましげに見ている。
「なぁ、涼丞。」
ずっと黙っていた蓮二がおもむろに口を開いた。
こちらを見つめる双眸はまるで試合に臨むときのように真剣で。
「学年末テストで、俺と勝負してくれないか。」
立海に入学して以来、一度も本気でテスト勉強をしたことがない。
小学生のころ、キヨには真面目に勉強するように言い聞かせたが、俺自身は中学生になってからこっそりセーブしていた。
前世の記憶がある分、ズルみたいだから嫌だ、なんて正義漢ぶった理由でなく、単純に目立ちたくなかったからだ。
中学校の学習内容くらいだったら、そこそこまじめに授業を聞いていれば、そこそこの点数をとれる。
それに甘んじて、これまでのテストはずべてのらりくらりとやり過ごしていた。
誰にも気付かれていないと思っていたが、やはり参謀と呼ばれ、立海で一番親しく付き合ったこの男には見破られていたようで。
「勿論、俺は本気でやる。」
だから、お前も本気を出せ、と暗に告げていて。
「わかった。」
最後の置土産替わりに、久しぶりに全力を出すのも悪くない。
勝負を受けると、親友はふわりと微笑んだ。
Reflection
さて、涼丞の転校先は氷帝に決まりました。
赤也は涼丞に懐いているので拗ねています。笑
ちなみに、病室に丸井くんとジャッカル、仁王くんはいません。
気を遣って席を外してくれています。
転校前に柳とテスト勝負をすることになった涼丞ですが、果たして結果は…?
REPLAY
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