スピカ : デザインテンプレート



05. Who are you?








「っ!、危ねぇ!」



咄嗟にバズーカからを庇う。


小さく、柔らかい体。
まさかこんな形で初めて抱きしめることになるとは思ってもみなかった。

きつく目を瞑ったが、軽い音が響いただけで、一向に衝撃が訪れない。
やはり、よくできたおもちゃだったのだ。
もう心配することは無いだろう、と白い靄の中で目を開く。
そうして、抱きしめていたに目を落として、驚愕した。

なめらかな頬のラインも、こちらを見つめる黒い瞳も、見覚えがあるのものだ。
だがしかし、全体的に雰囲気が違う。
なんというか、気怠げな色気がある。
そして、コートに包まれていたはずの体はその白い肌を晒していて。


「あれ?景吾…?」


「…聞きたいことはいろいろあるが、とりあえず服を着てくれ。」




しどけなくシャツを一枚羽織っただけの姿は、今の俺には目の毒だ。


◇◇◇◇◇



「つまり、ここは10年後の未来でアンタは成長したってわけか。」


「そう。」


どうやら、が成長したのではなく、俺が時間を越えたらしい。
正直言って、そんな突飛な話は信じられないが、見せてもらったカレンダーや新聞の日付、雑誌の出版年度などが嘘ではないと証明している。

とんでもない話に、頭が痛くなる。
一度深く呼吸して、頭の中を整理した。


「…わかった。信じる。で、俺は戻れるのか?」


「戻れるよ。中学生のとき、私が大人の景吾と過ごしたのはだいたい3時間くらいだったと思う。」


戻れるという言葉に安心するが、聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「大人の俺…?」


「そう。さっきまでここにいたの。24歳の景吾。今頃、中学生の私と一緒にいるんじゃないかな。」


成長しているとはいえ、さっきまで一緒にいた彼女と同一人物と思えないほど淀みなく話すに、調子が狂う。


「つまり、入れ替わってるってことか。」


「そういうこと。」


そう言っては楽しそうに笑うと、俺の座っているソファにやってきて、隣に腰を下ろした。


「ふふ。『今日は一日二人で部屋にこもって一緒に過ごす。絶対に部屋から出るな。』なんて言うから何かと思えば、今日だったんだ。」


両頬に手を添えられ、真正面から見つめられる。
いつものなら決してしないような行動。


「こうやって見ると、やっぱりよく知ってる景吾じゃないね。なんか面白い。」


「そりゃ、10年も経てば成長するだろ。現に、中学生のと今のは俺からしたら殆ど別人だ。」


美しくなった、と思う。
そして自信をつけて魅力的になった。


「景吾がそうしたんだよ?」


ささやくような甘い言葉に誘われるように、手を伸ばす。
さらりとした髪に指を通して、そのまま引き寄せた。
黒目がちの瞳が閉じられる。


そのまま唇を寄せようとして、


…思いとどまった。



「…悪い。」


目の前にいるのは確かにだが、違うのだ。

遠慮しながらもしっかりと頷いた、14歳の彼女の姿が脳裏によぎる。


「…やっぱり、こういうところは変わらないのね。」


拒まれたというのに、どこか嬉しそうなはソファから立ち上がると、俺の頭を撫ぜる。
いつもなら不愉快に感じるような行為だったが、今の相手ならなぜか許せた。


「ねぇ、景吾。わたしは今も昔も、景吾が思ってるよりも、景吾のことを好きだよ。」


こちらをまっすぐ見つめてくる瞳は真剣で。


「だからいつも『目の前の私』を目一杯、愛してね。」


「当然だ。」


可愛らしいお願いに誠意を持って頷くと、は柔らかく微笑んだ。


「あとね、景吾は多分覚えてないとおもうけど、私は…」


声がだんだん遠くなる。

さっきと同じ、白い靄が辺り一面に広がって。


の最後の言葉は爆発音にかき消された。