どうしてだろう。
最近、話していない気がする。
放課後。
大きなテニスバッグを持って、教室を後にする姿が見えた。
最後に亮と話したのはいつだっただろう。
少なくとも、連休と今日を含めて四日は話していない。
「しかも、明らかに避けられています。」
「あら困ったわねぇ。」
久しぶりの部活。
茶道部の幽霊部員率の高さを見せつける結果となった、まさかの参加者二名。
内訳は勿論、私と麗しの那智先輩である。
一席だけはきっちりと終えた後はいつも雑談。
それが今日は相談タイムになったわけなのですが。
「心当たりは無いの?」
「一応、気まずくなったのは意見の不一致が原因だとは思われますが、私はそこまで重要視するほどでは無いと認識した出来事なので、根本的原因がそれであるか否かの確証はありません。」
「意見の不一致、ねぇ。」
今となっては何が原因だったか思い出せないが、連休前のお昼休みに、珍しく亮と軽い論争になった。
そういう時に限って、タイミング悪く萩も長太郎も不在。
気まずい雰囲気に居たたまれなくて、次の授業が体育であることを理由に、早めに部室を後にした。
「それ以来、亮に話しかけようにも朝は始業ギリギリまで朝練。昼休みはミーティング。放課後は放課後ですぐに部活へ向かう。これじゃあ、話したくても話せません。おまけに、話そうとすれば何故か逃げられますし。もう、これ完全に嫌われた感じですよ。」
話しているうちにどんどんブルーになってくる。
今の私は相当残念な顔をしているだろう。
「ねぇ、ちゃん。私はそれだけが原因だとは思わないわ。」
那智先輩は余った練り切りを黒文字で上品に口へ運んでいた手を止めて、静かな瞳で私を見ていた。
「前から思っていたの。あなたたちはバランスが取れているようで取れていない。部外者の私が口を挟む事では無いと思ったから言わなかったけれど。」
「バランス…。」
心当たりが全く無いわけではない。
むしろ、思い当たる節が多すぎると言うか。
「一度言いかけてしまったから最後まで言っちゃうけれど、テニス部たちはちゃんに頼り過ぎ、ちゃんは頼らなさ過ぎ、ってことかしら。ちゃんが面倒見が良くて、なお且つ悩んでいる友人を放っておけないのは知っているわ。だから、相談に乗ってあげたり、お話を聞いてあげるのは大いに結構。実際、私も何度かお世話になったしね?けれど、ちゃんは彼らに何か相談したことがある?」
美しい手が掬うように抹茶椀を取る。
「人に頼って、縋ると楽になるわ。けれど、それが一方的過ぎれば逆に不安を生むのよ。自分はちゃんに頼っているのにちゃんは自分を頼らない。自分はちゃんにとって頼る価値が無いからじゃないか、って言う風に思考が傾いてしまっても仕方が無いわ。だって、今のちゃん、全然フェアじゃないもの。」
自分はこれでも彼らよりは精神年齢が上だ。
だから、頼られることは当たり前だし、頼るなんて考えもしなかった。
「ずっと心の奥で燻っていた不満や不安が、今回の事で一気に爆発してしまったんじゃないかしら。かるく不信に陥ってるのよ。」
自分の弱みを見せることは相手を心配させたり、困らせたりするだけだと思っていた。
だからこれまで、弱音を吐ける相手は両親と光しかいなかった。
「何事もギブアンドテイク。相手から受け取ったものがプラスの感情であれ、マイナスの感情であれ、同じ深さと誠実さで返さなきゃ。」
「…はい。」
「にしても、それを差し引いても情けないわ、彼。男なら当って砕けるくらいの気概を持って欲しいものね。」
心底困った、と言うように言う那智先輩がおかしくて、小さく笑う。
「これからは女性がリードする時代なので、問題ありません。」
「それは頼もしいこと。」
不安にさせて、ごめんね。
Reflection
主要キャラが出て来ないと言うまさかの事態。
お誕生日の子が名前しか出て来ないというまさかの事態。
お察しの通り、那智先輩を書くの、大好きです。
REPLAY
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