胸に沈む、錘。















きっかけは今となっては思い出せないほど、些細なこと。




俺たちは最近、ぎこちない。












001:なやむ。











宍戸亮はと喧嘩した。





いや、喧嘩と言うと大袈裟すぎる。


正確に言うと、よくあるちょっとした意見の食い違いが原因で最近、と気まずい。




例えば相手が滝や鳳ならば、お互いに言いたいことを吐き出して終われただろう。


けれど、今まであまり女子と話さなかった彼は、へどう接していいのか、未だに距離の取り方を掴みかねている。




謝ってしまえば簡単だったのだろうか。


けれど、お互いに自分の考えを言ったら食い違っただけなので、謝ると言うのもおかしい。




そんな風にどうすれば良いのかわからないまま、悩むうちに連休を挟んで、ますます気まずくなってしまった。


同じクラスと言えども、席が近いわけでもないし、恒例化していた滝と三人で過ごす昼休みにも、最近はテニス部のミーティングが毎日あるせいで、会えていなかった。
















連休明けの火曜日。


そろそろ危機感が募ってきた。


同じ教室で過ごしているのに、まともに会話をしていない。


声を聞いたのだって、金曜日の午前中に授業で当てられて英語を読んでいたのを一方的に聞いていたのが最後だ。








このままではまずい。






もともと滝を介して知り合った相手である。(しかも昼休みを一緒に過ごすことになったのは、滝のおまけのようなものだった。)


別に避けられているわけではないのだから、話しかければ良い。


そうは理解しているものの、肝心なときにその声は嗄れてしまうのだ。






一体どうすれば彼女と前のような関係に戻れるのか。


困惑した宍戸亮の思考は自身の考察にまで及んだ。


が、しかし。


よくよく考えてみると自分はのことをあまり知らない。


普段から彼女は聞き手に回るばかりで、あまり自分のことを話さない。


実際、は話を聞くのが上手いと思う。


話しているとき、自分でもうまくまとめられない話をまとめて返してくれたり、間違った方向に考えを進めそうになった時には正してくれる。


自分で処理しきれない感情を上手く飲み込む助けをしてくれる、そんな存在。


ただ聞くだけでなく、自分を理解してくれようとするその姿勢を彼は密かに尊敬していた。






けれども。






自分はこれまで彼女の話を聞いてきただろうか。


…単純に彼女の声に耳を傾けることなら、初対面時に厳しく指摘されてしまったため、骨身に染みている。


だがしかし、彼女自身の心のうちや、考え方、趣味や嗜好などをこちらから尋ねたことはあっただろうか。


普通の友人同士なら当たり前に知っているような事を、彼女に関してだけは何も知らない。


そうして、ふと思った。


彼女にとって自分とは何なのだろう、と。


少なくとも自分にとっては友達、それも滝や長太郎と同じくらいに仲が良い友達、つまり親友だと思っている。








けれど、もし彼女の方は自分のことを何とも思っていなかったら?


たった一度の意見の齟齬で見限ってしまえるほどに軽い存在だったら?








思考は鉛のように重く沈んで、もうどうすればいいのかわからなかった。


そうして、今日もまた伸ばした手は空を切るのだ。





















Reflection


宍戸くんハピバ!


お祝いのはずなのに、宍戸くんを落ち込ませている私。


・・・すみません。




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