デザインテンプレート









納得がいかなかった。





011:神聖な誓いにも似て 
【日吉若】







完全実力主義、敗者切り捨て。
その方針に魅かれて、氷帝テニス部に入部した。

強ければ、認められる。
逆に、努力を怠れば転落する。

それはシンプルで潔いルールだ。



つい最近『例外』として一度敗北した選手がレギュラー復帰した。



宍戸さんのことは嫌いじゃない。
良い先輩だと思う。

しかし、それとこれとはまた別の話だ。
ルールはルール。
それが違えられるのは、釈然としなかった。

宍戸さんが滝さんに勝ったことで、俺がレギュラー入りすることになった、というのも引っかかっていた。
勿論、レギュラー候補になるまでの実力をつけてきたのは確実に俺の成果だし、自身のスキルに不安があるわけじゃない。
レギュラー入りは念願だった。
けれども、その経緯がすっきりしなかった。


「日吉!レギュラー入り、おめでとう。今日からよろしく。」


ロッカールームから一番遠いコート。
静かなそこで壁打ちをしていると、鳳がやってきてそう言って爽やかに笑った。
思わず眉をしかめる。


八つ当たりだ。
醜い。
そんなことは百も承知だ。

それでも、誰かにぶつけたかった。


「なぁ、お前はいいのか?」


「なんのこと?」


「宍戸さんのレギュラー復帰だ。確かに、実力を付けたのはわかる。けれども、それは滝さんとお前のサポートがあったからだ。」


滝さんは、自分の練習をしながら、後輩の面倒も見て、そして宍戸さんの練習メニューの相談にも乗っていた。
だから負けた、とまでは言わないが、宍戸さんの勝利は周囲に助けられて得たものだ。


「それに、お前は本当はシングルスで出るはずだった。それを、ダブルスで宍戸さんのサポートに回って、それでいいのか?」


こいつはこいつで地道に努力してきたのを知っている。
鳳がシングルス控えの選手に選ばれたとき、悔しかったが納得も出来た。
そのくらいの努力をしていた。
だからこそ、あっさりとダブルスにまわったのが理解できない。



「なんでお前はそこまでして宍戸さんを尊敬していられるんだ。」


鳳が何も言わないのを良いことに、気の済むまで感情をぶつけた。



「俺には、わからない。」



遠く、幾重にもボールのインパクト音が響く。
じりじりと太陽が肌を焼くのを感じながら、それでも鳳は俺から目をそらさなかった。



「うん。同じ事、宍戸さんにも言われたよ。」


穏やかな口調。
鳳の持つ雰囲気があまりにも柔らかいから、何だか自分がひどく子どもじみて見えた。


「宍戸さんの特訓を横で見てて、凄くいろいろ考えさせられたんだ。勉強になった。技術面は勿論だけど、特にメンタル面で宍戸さんのことを凄いと思ってる。俺はメンタルが弱い自覚があるし、それは滝さんにも指摘された。」


テクニックは練習を積めば追いついてくる。
けれど、メンタルはそうはいかない。


「宍戸さんとダブルスを組むことで、俺が損するように見えるかもしれないけれど、実際はそうじゃないよ。宍戸さんは俺を上手くサポートに使う。俺は宍戸さんから技術や姿勢を盗む。生意気かもしれないけど、コートに入ったら例え先輩と言えども対等でありたいと思ってる。」


鳳は、とても貪欲だった。
そして、まっすぐだ。
それが、眩しくて。


「だからさ、心配しないで大丈夫だよ。俺も俺なりに考えて出した答えだから。」


そう言って、晴れ晴れとした顔で笑う。
なんだか先を行かれたような気がして。



「俺はお前のそういうとこ、凄いと思う。けど、ちょっと苦手だ。」 



鳳のようにまっすぐ生きることはできない。
俺には俺のテニスがある。
それでいい。
けれども、全てをプラスに変えられるその白さが少し、羨ましいと思う。



「俺は日吉の素直じゃないとこ、きらいじゃないよ。」



からかうような鳳の台詞に、少しだけ口角を上げて応える。



「ちょっと付き合え。」


転がっていたボールをラケットですくってパスすると、鳳も器用にラケットで受けた。


「サーブ、貰っても?」

「望むところだ。全力で来い。自滅するなよ?」

「…ノーコンって言いたいの?これでも気にしてるんだけど。」





待ってろ。
必ず追いついてみせる。
否、追い越して前を走ってみせるから。










Reflection


日吉くんの心境。
この子はこの子でまっすぐな子です。

滝さん、宍戸くん、ヒロインの3人が壊せない関係を築いているように、2年生組は2年生組なりの関係を築いていってると思う。

これにてレギュラー騒動編はおしまい。
次からはまた、鬼ごっこが始まります。

REPLAY
Copyright c 2012 Minase . All rights reserved.