完全実力主義、敗者切り捨て。
その方針に魅かれて、氷帝テニス部に入部した。
強ければ、認められる。
逆に、努力を怠れば転落する。
それはシンプルで潔いルールだ。
つい最近『例外』として一度敗北した選手がレギュラー復帰した。
宍戸さんのことは嫌いじゃない。
良い先輩だと思う。
しかし、それとこれとはまた別の話だ。
ルールはルール。
それが違えられるのは、釈然としなかった。
宍戸さんが滝さんに勝ったことで、俺がレギュラー入りすることになった、というのも引っかかっていた。
勿論、レギュラー候補になるまでの実力をつけてきたのは確実に俺の成果だし、自身のスキルに不安があるわけじゃない。
レギュラー入りは念願だった。
けれども、その経緯がすっきりしなかった。
「日吉!レギュラー入り、おめでとう。今日からよろしく。」
ロッカールームから一番遠いコート。
静かなそこで壁打ちをしていると、鳳がやってきてそう言って爽やかに笑った。
思わず眉をしかめる。
八つ当たりだ。
醜い。
そんなことは百も承知だ。
それでも、誰かにぶつけたかった。
「なぁ、お前はいいのか?」
「なんのこと?」
「宍戸さんのレギュラー復帰だ。確かに、実力を付けたのはわかる。けれども、それは滝さんとお前のサポートがあったからだ。」
滝さんは、自分の練習をしながら、後輩の面倒も見て、そして宍戸さんの練習メニューの相談にも乗っていた。
だから負けた、とまでは言わないが、宍戸さんの勝利は周囲に助けられて得たものだ。
「それに、お前は本当はシングルスで出るはずだった。それを、ダブルスで宍戸さんのサポートに回って、それでいいのか?」
こいつはこいつで地道に努力してきたのを知っている。
鳳がシングルス控えの選手に選ばれたとき、悔しかったが納得も出来た。
そのくらいの努力をしていた。
だからこそ、あっさりとダブルスにまわったのが理解できない。
「なんでお前はそこまでして宍戸さんを尊敬していられるんだ。」
鳳が何も言わないのを良いことに、気の済むまで感情をぶつけた。
「俺には、わからない。」
遠く、幾重にもボールのインパクト音が響く。
じりじりと太陽が肌を焼くのを感じながら、それでも鳳は俺から目をそらさなかった。
「うん。同じ事、宍戸さんにも言われたよ。」
穏やかな口調。
鳳の持つ雰囲気があまりにも柔らかいから、何だか自分がひどく子どもじみて見えた。
「宍戸さんの特訓を横で見てて、凄くいろいろ考えさせられたんだ。勉強になった。技術面は勿論だけど、特にメンタル面で宍戸さんのことを凄いと思ってる。俺はメンタルが弱い自覚があるし、それは滝さんにも指摘された。」
テクニックは練習を積めば追いついてくる。
けれど、メンタルはそうはいかない。
「宍戸さんとダブルスを組むことで、俺が損するように見えるかもしれないけれど、実際はそうじゃないよ。宍戸さんは俺を上手くサポートに使う。俺は宍戸さんから技術や姿勢を盗む。生意気かもしれないけど、コートに入ったら例え先輩と言えども対等でありたいと思ってる。」
鳳は、とても貪欲だった。
そして、まっすぐだ。
それが、眩しくて。
「だからさ、心配しないで大丈夫だよ。俺も俺なりに考えて出した答えだから。」
そう言って、晴れ晴れとした顔で笑う。
なんだか先を行かれたような気がして。
「俺はお前のそういうとこ、凄いと思う。けど、ちょっと苦手だ。」
鳳のようにまっすぐ生きることはできない。
俺には俺のテニスがある。
それでいい。
けれども、全てをプラスに変えられるその白さが少し、羨ましいと思う。
「俺は日吉の素直じゃないとこ、きらいじゃないよ。」
からかうような鳳の台詞に、少しだけ口角を上げて応える。
「ちょっと付き合え。」
転がっていたボールをラケットですくってパスすると、鳳も器用にラケットで受けた。
「サーブ、貰っても?」
「望むところだ。全力で来い。自滅するなよ?」
「…ノーコンって言いたいの?これでも気にしてるんだけど。」
待ってろ。
必ず追いついてみせる。
否、追い越して前を走ってみせるから。
Reflection
日吉くんの心境。
この子はこの子でまっすぐな子です。
滝さん、宍戸くん、ヒロインの3人が壊せない関係を築いているように、2年生組は2年生組なりの関係を築いていってると思う。
これにてレギュラー騒動編はおしまい。
次からはまた、鬼ごっこが始まります。
REPLAY
Copyright c 2012 Minase . All rights reserved.