本当の真実というものはいつでも真実らしくないものだ。

真実をより真実らしく見せるためには、どうしてもそれに嘘を混ぜる必要がある。

だから人間はつねにそうしてきたものだ。



フョードル・ドストエフスキー

002:類稀なる悪巧み







「それにしても、今回のやり方は少しばかり悪どすぎませんか。」





ミラは、目の前で優雅に午後のティータイムを楽しむ上司に呆れたような視線を送った。

階級が高くなるにつれてコードネームの星が明るくなるのが慣習のNOVAにおいて『リゲル』の名は重い。

けれども目の前の上司は研究においては確かに優秀だが、その他の事に関しては全くもって食指を動かさなかった。

面倒なデスクワークは部下に任せて、日がなふらふらと研究室やら資料室やらを渡り歩くような、そんな人間だと認識していた。



だから油断した。


まさかこんな計画を一人で練っているとは思いもしなかった。

そして気付いた時には全てが遅かった。



「まさか本当に魂を手に入れてくるとは思いませんでしたよ。」


事の顛末はこうだ。

計算とシミュレーションだけでは研究の限界を感じ始めた我らが上司は実験を思い立った。

けれどもその実現には大きな壁がある。



被検体の不在だ。


実験するために魂がどうしても欲しい。

けれども魂は管理局がキッチリ管理していて手が出せない。

ならば勝手に刈り取ろうにも魂の剥離の方法は回収局しか知らない。

盗み出して前科持ちになっても実験ができるならば構わないが、魂に関する罪を犯した者への罰は重い。何十年も研究から引き離されて塀の中で過ごすのはご免だった。

ならばどうすれば魂が手に入るか。

NOVAの頭脳と呼ばれるリゲルが考え出した方法は、『無理やり余剰分を作ること』だった。



そこからは簡単だった。




回収局のメインコンピュータに侵入して回収リストを弄って、時間差で発動するようなウイルスを仕掛けた。

出世欲と他部署への敵対心の塊のような回収局の思考パターンは手に取るように読める。

取引を持ちかければ即座に応じるのも、とりあえずの解決が成されれば深くは原因を探らないのも想定内だ。

思ったよりも数は少なかったが、魂が手に入っただけでも満足だ。



「それで。魂はどうしたんですか。」


何だかんだで常識派と言われているミラもNOVAの一員なだけあって研究には目が無い。

ようやく手に入った魂に興味がない筈が無かった。



「どうせならじっくり吟味して選びたいと思って。リストだけ借りて来たから明日にでも迎えに行くよ。」


そう言って微笑んだリゲルは至極満足そうな表情でクッキーに手を伸ばした。

サクサクと音を立てながら咀嚼されていくきつね色の焼き菓子はわざわざ遠方から取り寄せたものだ。

苦労して手に入れても食べられてしまえばほんの一瞬で終わり。

結局自分の苦労性とは一生のお付き合いになるに違いない。どうせ付き合うならもっと癒されるような存在がよかった。などと珍しくミラが思考を飛ばしていると、唐突に爆弾発言が落とされた。



「手に入った魂、君とカペラくんに担当してもらうからよろしくね。」




それ以来ミラは実験が一段落したらペットでも飼おうかと本気で検討している。












Reflection

取り敢えずNOVA編は一段落。

本当はカペラちゃんも登場させたかったものの、長くなったのでバッサリ切り捨て。

今後、気が向いたら増えているかも知れません。

REPLAY
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