ぜんざい



「ダブルデート、してくるわ!」


そう言って、うきうきと出かけた互いの両親を見送って、光と過ごす日曜日。
ふたりとも冬休みの宿題も既に終わらせていて、気分的に余裕満載。
しかしこの寒さのなか、出かける気にもなれなくて、私の家でのんびりすることにした。


「おなか空いたね。なんか食べる?」

「…ぜんざい。」

「レトルトのんならすぐできるけど?」

「それでええ。」 


キッチンで、『二人用』と書かれたレトルトパウチのぜんざいのもとを温めて、トースターでお餅を焼く。
ソファに座っている光のツンツンした頭を眺めながら、お湯を沸かしているお鍋で暖をとった。


「できたよー。」

「ん。ありがと。」

向かい合わせになるように、テーブルに湯気のたつ器を置く。
甘い香りに頬をゆるめながら、お餅をかじる。


「あったまるねー。」

「せやな。」

「白玉も美味しいけど、お餅の善哉も好き。」

夏場はよく、冷たい白玉ぜんざいを作る。
大阪にいるときは、光のために。
東京に帰っても、光を思い出しながら。
『今』の私の思い出のほとんどは光と共有しているのだなぁ、と改めて思う。


「あ、栗が入ってた。」

「うそや。俺んとこには入ってなかったで。」

ひと足先に食べ終えた光が悔しそうに眉を寄せる。
その仕草が、意外なほどあどけなくて、なんだか小さい頃を思い出した。
今でこそ、光に気を遣われてしまうことが多くなったけれど、幼い頃は私が光を守って大事にしてきた。
そんな頃を懐かしく思うと、不意にお姉さん振りたくなってしまって。


「仕方が無い。私のをあげるよ」



そう言って、栗をすくって光の器に入れようとした、その時。



すっ、と伸びた手に手首が掴まれた。
そのまま、光はゆっくりと私の手ごと引き寄せる。
栗ののったスプーンをぱくり、と咥えるとこちらを見つめて目元だけで笑った。
するり、と手が離れる。
ん、と顔で押し返されるままに手を引っ込めると、うっすらと開いた唇から、スプーンからさらった栗の黄色が覗いた。



…心臓に、悪い。


「ありがとう。ごちそーさま。」

「…器、洗うから置いといてくれたらええよ。」

「ん。ちょっとやし、作ってもろたから洗うんくらい俺がするわ。」

食べ終わったら貸して、と言ってキッチンに歩いて行く後ろ姿を見送って、頬に手をあてる。
…熱い。
器に残った小豆を見ながら、ため息をつく。



(一瞬、中学生の従弟相手に凄まじいほどの色気を感じてしまったなんて、誰にも言えない。)

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