ミルフィーユ



「美味しいケーキのお店、知ってる?」

昼休みの茶道部部室。
購買にお昼ごはんを買いに行った亮を待っているときだった。
唐突に切り出した萩は心なしか困っていて。


「一応お気に入りのお店はあるけれど…。萩のお母さんの方が美味しいお店、知ってるんじゃないの?」

萩の家はそこそこの旧家で、遊びに行く度に凄く美味しいお茶菓子をごちそうになる。
この間、いただいた練り切りは見た目は勿論のこと味も抜群で、感動してしまったくらいだ。


「和菓子なら、贔屓にしている店があるんだけどね…。今度、お母さんの友人が遊びに来るんだけど、その子どもが和菓子を食べれないらしくて。相手側は気を使わなくていい、って言ってくれてるんだけど流石にそういうわけにもいかないから。」

うちではあんまり洋菓子だとかケーキだとか食べないんだよね、とつぶやく萩。

…言われてみれば、確かに萩の家でケーキをいただいたことは無かった。
私でお役に立てるなら、喜んで協力しましょう!ということで、何軒かのケーキ屋さんをピックアップする。



「ありがとう。参考にさせてもらうよ。ちなみに、一番のおすすめは、どこ?」

「一番最後に言ったお店かなぁ。」

「カフェスペースがあるところ、だね。」

「そうそう。そこだとミルフィーユがおすすめなんだけど、ただ問題があって。」

「問題?」

「よくわからないんだよね、ミルフィーユの正しい食べ方。」

「正しい食べ方?…普通にフォークで刺して食べるんじゃ駄目なの?」

「駄目なの。」


前世から好きでよく食べるミルフィーユ。
けれども、綺麗に食べられた試しがない。
パイ生地が崩れたり、中身がはみ出たり、と折角の美しい層がぐちゃぐちゃになってしまうのだ。


「どうしてもお皿の上が散らかっちゃうから、恥ずかしくてカフェでイートイン、できないの。」

折角、可愛らしいカフェが併設されているのに、ミルフィーユを注文する勇気が出ずに、いつも無難なケーキを頼んでしまう。
テイクアウトして、家でなんとか綺麗に食べようと奮闘してみてはいるものの、結局崩壊してしまう。
ミルフィーユと私との過去の戦いを思い出して唸っていると。


「じゃあ、今度、練習しに行こっか。情報提供料代わりに、美味しいと評判のミルフィーユ、ご馳走するよ。」


首を傾げて、にっこり笑う萩。


「ミルフィーユ初心者の俺と一緒なら、気にしなくてすむでしょ?」

一緒に戦ってこよう、との冗談めかしのお誘いに、にっこり微笑んでうなずいた。




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