ミステリアスな男はお好きですか?








「カカシ!勝負しろ!!」


「またか...。」


毎度懲りない男に溜め息を吐いた。





REPLAY@NARUTO:上手に隠して微笑んで







「で、今日は何に付き合えばいいの?」

「ずばり、崖登りだ!」


木ノ葉の忍たるもの、やはり体力が資本だからな、と言いながらギラギラとした目でこちらを見てくる。
ガイがカカシをライバル視して、ことあるごとに勝負を仕掛けているのは有名な話だ。


マイト・ガイ。
自称、木ノ葉の気高き碧い猛獣。
アカデミーではカカシと同期で、「天才」として敬遠されるカカシにも臆すること無く、一歩的に「ライバル」と認定し、勝負を挑んでくる男。
しかし、その実力は確かで、体力や精神力、とっさの機転などはカカシでも時に敵わないと思う時がある。
優秀な忍だ。

…ただ、熱血漢で暑苦しい。

「コピー忍者のカカシ」として里の内外にその名を轟かせている、「エリート」のカカシ。
そんな彼からしてみれば、なぜ彼がここまで勝負に拘るのかわからなかった。
正直言って、めんどくさい。
ガイのことは忍として認めているのだから、それで良いじゃないか、と思うのだが、相手はあくまで「勝ち負け」にこだわろうとする。


「…崖登り。忍務帰りで疲れてるんだよねぇ。」


難易度は低いが、なかなかに距離があったため長期になってしまった忍務。
何が哀しくてその帰りに自分をいじめなければならないのか。
再び大きな溜息を吐くと、ガイは心外だと言うようにカカシに詰め寄った。


「非戦闘忍務で体力を使いきってどうする!そんなことでは非常時に動けないぞ!」


別に体力を使いきってはいない。
しかし、今から崖登り勝負なんかに付き合ったら、そうなってしまうだろう。
面倒だし、うるさいけれど、少し耐えて適当に返事をしておいて、折を見てもっとてっとりばやい勝負にすり替えて上手く逃れよう。
すっかりガイの扱い方をマスターしてしまった自分に苦笑する。
そうして、右から左へと説教を聞き流しながら、頭の中で報告書の内容をまとめ始めたときだった。


「お兄ちゃん。」


柔らかい声が響いて、ふと後ろを振り返る。
見覚えのある、華奢な体。
ガイが目に入れても痛くないほど可愛がっている従妹のだった。


…!お前、こんな里の外れまで一人で来て!ダメじゃないか!!」


さっきまでカカシに詰め寄っていたのが嘘のように、ガイはに駆け寄って説教を始めた。


「…あのね。私、これでも一応、特別上忍なの。必要なら、里の外にも行くし、Sランク任務だって何回かこなしてる。いい加減、わかって。」


「確かにそうだが…。」


言いよどむガイに、困ったように眉を寄せると、は静かに口を開いた。


「心配してくれるのは、とっても嬉しいけど、ちょっとは私もお兄ちゃんに認めて欲しいな。」

「認めてないわけじゃない…!の実力はよくわかってる!」

「だったら、嬉しい。私もお兄ちゃんみたいに、立派な忍になれるように頑張るね。」

はもう、立派な忍だ!」

「ありがとう。お兄ちゃんにそう言ってもらえると、嬉しい。…そう言えば、火影さまがお兄ちゃんのこと、呼んでらしたよ?」

「なにっ…!?それは急いで向かわなければっ!ありがとう、!」

「うん。いってらっしゃい!」


…流れるような、手際の良さ。


「ありがとう、ちゃん。助かったよ…。」


「どういたしまして。毎度毎度、すみません。」


従妹とはいえ、あのガイと血がつながっているとはとても思えないほど、彼女は落ち着いている。


「カカシさん、任務お疲れさまです。」


「ありがとう。ちゃんに労ってもらうと、疲れも吹っ飛んじゃう。」


冗談めかして言うと、彼女は楽しそうに笑う。
そうして、先程ガイに見せたのとは違う、悪戯めいた表情を浮かべた。


「ところでカカシさん。私、いまとってもお腹がすいてるんです。」


「…なんでもご馳走しちゃいましょ。」


「それでこそカカシさん。」



ガイほどでは無いが、自分も大概彼女には弱いのだ。
そうして、自分に関してはそれは決して『妹』としてでは無い。

「そこんとこ、わかってないよねぇ…。」

小さく呟いた言葉は、風に揺れる木々の音でかき消された。


◇◇◇◇◇


NOVAから説明を受けて20年前、私は『二度目の人生』を受け入れた。

そうして、転生したのは『NARUTO』の世界だった。
この世界では、悲しい事件がたくさん起こる。
それに対して、自分はどう生きよう。
木ノ葉の里に生まれた以上、全く関わらないという選択は不可能だ。
まして、自分の従兄は今後、原作に深く関わっていく「マイト・ガイ」
しかしながら、忍にならずに一般人として存在を消して生きていくことならできる。

しかし、私は忍になることを選んだ。

最初は、従兄に猛反対された。
彼が小さい時から私のことを本当の妹のように可愛がって、大切にしてくれているのは重々承知だったので、忍という危険を伴う職業には就かせたがらないだろう、というのは予想していた。
私も、「お兄ちゃん」と呼んで、ずっと慕ってきた。
術の才能が無い、と言われても努力して、努力して苦しみながらも忍の夢を追い続けた姿をとなりで見てきたし、甘くない道だというのはわかっている。
いくら生まれは木ノ葉とはいえ、私の中身は現代日本の平和な世界の価値観で構成されているので、正直言って痛いのは嫌だし、戦闘は怖い。
けれども、私は自分のことは自分で守りたかった。
それが叶うだけの力がほしかったのだ。
私の決意が堅いと知って、お兄ちゃんは結局最後には折れてくれた。

そうして、幸いにも素質があって医療忍術に特化した忍として認められ、特別上忍にもなった。
私は、望んでいた力を手に入れた。

しかし、前世の記憶があって、起こることを知っているからと言って、別に世界を救いたいだなんて思わない。
誰かを生かす、ということはその裏で誰かを殺す、ということだ。
家族や大切な友人のように、そこまでしてでも運命を変えたいような相手なら話は別だけれども、登場キャラ全員を救うなんて、おこがましいと思う。

忍務をこなして、たまの休日には仲間と集まったり、報告書に追われる。
体が鈍らないように自主トレは欠かさず、くのいちとして容姿もそれなりに整える。
自ら新しい医療忍術を開発したりはしないが、常にアンテナを張り巡らせて、良いと思ったら技術の新旧関わらず取り入れる。

決して原作に不用意には関わらないが、だからといって危険を恐れて過剰に避けたりもしない。
そもそも、私というイレギュラーが入ったことがどう原作に影響するかもわからない。


私は、「原作」なんてなかったことにして、見ないふりをして生きていくことにした。


両手が届く範囲だけ、守れれば良いのだ。


そうして、私は私なりに木ノ葉の里での忍ライフを楽しんでいた。


◇◇◇◇◇


「美味しかったです。やっぱり和食が良いですね。」


自然に絡められた腕を見下ろして、気付かれないように溜息を吐く。
里の男たちの嫉妬に満ちた視線は優越感を与えて心地良いが、彼女は自分のことなど全く意識していないと知っているので、少し複雑だ。

と初めて出会ったのは、まだアカデミーの頃だった。
その頃は、ただ単にガイが溺愛している女の子、という印象しかなかったのだが。

彼女がまだ中忍だったときに一度、一緒に忍務に行ったことがある。
その時、初めてガイの存在抜きでと接した。
最初は、『兄』であるガイに守られて、甘やかされた女の子だろう、と高を括っていた。

カカシは、中忍になりたての忍と組むのが嫌いだった。
力は無いし、経験も無いくせに、やる気だけはあるタイプが多くて、面倒だからだ。
自分の無力さを自覚していないものほど、奢ってミスをしやすい。
だから、ツーマンセルの相棒がだと聞かされて、面倒だとしか思わなかったのだ。

しかし、組んでみると驚くほどやりやすい。

は決して無理をせず、必ずカカシの意見を仰いだ。
その代わり、意見を求められたらきちんと思慮深く話すし、医療技術も申し分ない。
移動速度が速くてついていけない時はきちんと訴えたし、できないことはできないとハッキリ言う。
きちんと自分を客観的かつ冷静に見ていた。

忍務にかかる際、敵を知ることは勿論、味方の力配分をどれだけ上手く組めるかも大切になってくる。
その点、妙な意地をはらずに、きちんと自分の能力や体力を自己申告してきた彼女は、今まで組んだ中忍のなかで最も組み易かった。

だからだろうか。
忍務終わりに、カカシとしては珍しく彼女を食事に誘った。
そうして、普段の彼女が実はよく笑う女の子だと知った。
忍務とプライベートをきっちりと線引きして切り替えている。
そのうえ、よく気がつくし、話題も豊富で話していて楽しい。
惚れないわけがなかった。

以来、彼女に近づく男をそれとなく牽制しながら、今日まで片思いを続けている。
彼女の方も、憎からず自分のことを思ってくれているだろう、という自信はある。
けれども、なかなか踏み込めない。
カカシとしては珍しく、長期戦で挑む恋だった。


「明日は、忍務入ってる?」


「私は待機だけです。カカシさんは?」


「俺も予定より早く帰ってこれたから、明日は多分待機になるだろーね。…ということで、ま、もう一軒行きましょっか。」


楽しそうに頷く彼女を連れて、暖簾をくぐり、カウンター席に腰をおろす。


「ここ、初めて入りました。珍しく、ほとんど忍ですね。」


「店主が元忍だから、みんな溜まりやすいんだよねぇ。」


やはり一般人の経営している店では、機密情報などの聞かれて困るような話は慎んでいるとはいえ、仕事の愚痴は零しにくい。
ときどき、というか殆どの確率で血なまぐさい話になってしまったり、迷惑をかけることも屡々。
その点、この店ならいくら容赦ない話をしても、周りも店員も気にしないので気が楽だった。

別に彼女と血なまぐさい話をする気はない。
三杯目のグラスを空けながら、くすくすと笑う彼女と交わすのは、小さい頃の思い出話や忍犬のことなど、本当に他愛もない話。
本当なら、もう少し先にあるお洒落な店で飲み直したいところだ。

ただ、今夜ここを選んだのはきちんとした理由があって。


「あれ?カカシじゃねーか。」


「なに?カカシだと…?!」


暖簾をくぐって入って来たのは、先ほどカカシに「崖登り勝負」を仕掛けたガイと、飲み仲間のアスマだった。


「おっ、カカシ。珍しく女連れか?」


ニヤニヤと笑うアスマの隣で、目を見開いてこちらを見つめるガイ。


「あれ?お兄ちゃん?」


「なんでがカカシと一緒に飲んでるんだ!」


瞬時にやってきて、襟首をつかまれる。
締め上げられていることよりも、顔が近いことが気になる。

…正直言って、アップはきつい。


「ちょっと、ガイ、ほんと離して。近い。」


「カカシさんに、晩御飯ごちそうになったの。いま、二軒目。飲み直し中。」


そう言って、へらりと笑ったは、そこそこ酔っている。
すこし赤らんだ頬と、潤んだ瞳が可愛らしい。


「二人で食事…!まるでデートじゃないか!」


「デート…言われてみれば、そうかも。デート中なので、邪魔しないでね、お兄ちゃん。」


…訂正しよう。かなり酔っているらしい。
いつもなら、決してガイを逆なでするようなことは口にせず、上手に受け流して躱しているが、積極的にガイをからかっている。
周りからしたら、じゃれているようなものだが、ガイ本人にとっては一大事だ。
なにしろ、目に入れても痛くないほど可愛がっている、大切な『妹』なのだ。


「ダメだ!デートなんて!結婚を視野に入れて付き合えるような、誠実な相手じゃないと許さん!」


「俺は考えてるよ?ちゃんと結婚。」


狙いすまして、完璧なタイミングで爆弾を投げつける。


「え…?」


「俺はちゃんのこと、好きなんだけど。…ちゃんは、俺のこと、キライ?」


驚いた顔でこちらを見つめてくる
狡いと知りながらも、彼女が決して拒絶しないと知っていて、言質をとる。


「いえ…。私、カカシさんのこと、好きですよ?」


「じゃ、決まり。」


あんぐりと口を開けるガイと、注目している店中の人間に向かって、牽制の意味も込めて宣言する。


「と、いうことでちゃんと婚約します。」


隣に座っている柔らかい体を抱きしめる。


「もう婚約なんですか?」


「結婚を前提のお付き合いなら、婚約でしょ?」


そういうものなんですか、と感心したように頷くちゃんに、力強く返事を返す。


「良いんですか?私、これでもなかなか謎多き女ですよ?」


「それは楽しそうだ。」


挑戦的に微笑む目元にひとつ、くちづけを落した。






Reflection

REPLAYヒロインがもしも、NARUTOの世界に転生していたら…というお話でした。
まさかのガイ先生と従兄妹関係。
容姿は前世のままとはいえ、なかなかに濃い人生がおくれそうです。

REPLAY
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