恋に不器用な年上の男。









「ねぇ、ちゃん。今夜、ヒマ?」


「あいにく、読みたい本があるんです。」


「…つまり、ヒマだね。じゃ、後で迎えに来るから。」






REPLAY@ONEPIECE:ブルー・ブルー・ブルー







NOVAに飛ばされ、生まれ直した先は、群雄割拠の大航海時代だった。

ONEPIECEと言えば戦闘や争いがつきもの。
私も、身内によっては色々と覚悟しなければならない。

父は海軍中将だが、見覚えのない顔をしていたし、母は一般人。
一体、私の身内の『登場人物』とは誰なんだろう。
全く心当たりが浮かばない。
戦々恐々としながら幼少期を過ごしたが、一向にそれらしい人物に出会わない。

そうして、思った。
きっと、私の父が戦闘シーンなどでモブ的な登場を果たすのだ、と。
きっと『登場人物』の枠というのは思ったよりも広いのだ。

そうして、私は身内の『登場人物』探しから、これからの身の振り方を考えることに思考をシフトチェンジした。

ワンピースは冒険漫画であると同時に、バトル漫画だ。
いくら、身内がモブキャラだったとしても、これから何が起こるかわからない。
自分の身は自分で守れた方が良いだろう。

そうしてたどり着いた結論は、海軍入隊だった。

海賊になんてなるつもりはない。
基本的に、彼らは悪だ。
力に任せて弱者を蹂躙する。
この世界に身をおいて実感した。

主人公のルフィ率いる麦わら海賊団のように、善良な海賊団の方が、稀なのだ。

別に、正義がどうの悪がどうの、だなんて二元論を持ちだしてとやかく言うつもりはないが、リスクを犯してまで悪の道を進みたいとは思わなかった。
例え、きな臭い噂や疑惑があっても、いまの時代は海軍が『正しい』。

そうして、私は入隊テストに合格して、父と同じマリンフォードに配属された。

そこで漸く自分が勘違いをしていたことに気付いた。


「アンタが姉さんの孫だね。たしかに、ちょっと似てる。」


唐突に呼び出された大参謀の御前。
そこで告げられたのは衝撃の事実だった。


私の大叔母は、あの『おつるさん』だったのだ。

中将で、大参謀。
老齢でありながらも、その発言力は重い。
そんな、海軍でもトップクラスの重鎮が身内だったとは。


なんたること。


一体どこから情報が漏れたのか、『おつるさんの大姪』ということが知れてからの私の海軍生活はなかなかにやりづらかった。
どれだけ努力しても、なかなか実力だとは思ってもらえない。
『おつるさん』や中将である父の口利きだ、女だから汚い手を使ったのだ、と誹られる。

私としては、特に気にしていなかったのだが、両親が気に病んでいるのが申し訳なかった。
母はもともと、あまり体が丈夫な方では無い。
心配そうにこちらを見つめる母に、私も海軍除隊を本気で検討していた時だった。


「アンタ、明日から黄ザル付きね。」


突然の辞令。
おつるさんに呼び出されて、拝命したのはまさかの『海軍大将』付き。


「どうせ、何やってもアンタは実力だと思ってもらえない。そんなんで損するくらいなら、逆に思いっきりコネを使ってやればいいんだよ。」


そう言われて、私はありがたくお話をお受けすることにした。


「あと、別にアンタに実力が無いって言ってるわけじゃない。黄ザルには使える子だって言ってあるんだから、アタシの顔を潰すんじゃないよ。」


そう言って、ニヤリと笑うおつるさんに、微笑んでしっかりと頷き返す。


「ご期待に、応えてみせます。」


そうして、私は大将付きとなった。
ボルサリーノ大将は、私のことを可愛がってくださるし、仕事もやりがいがある。
充実した日々を送っている。


しかし、そんな私にも悩みがある。


ちゃん、青雉のヤツにかなりアタックされてるみたいじゃないのぉ〜。」


そうなのだ。
なぜか、彼からやたらと構われる。


最初は丁寧に受け答えをしていたのだが、最近は面倒になってきて不敬と取られても仕方がないような態度をとってしまっている位だ。
確かに彼とは何度か話したこともあるし、知らない仲ではない。

恋愛感情なのか、単に可愛がられているだけなのかは微妙なところだが、好意を持たれるのは嬉しいし、悪い気はしない。
けれども、彼の場合それが一体どういう意図を持っているのかわからない。
底が見えないのだ。
だから、どんな態度をとれば良いのか決めかねている。


言い寄られて、適当にあしらう。


そんな関係を続けていたある日、私は再びおつるさんに呼び出された。


「前からバカだバカだとは思っていたけれど、まさかここまでバカだとは思ってなかったよ。」





◇◇◇◇◇


ブーツを踏み鳴らしながら、取り敢えず話を聞きにクザン大将の執務室に向かう。
入室許可をもらって、部屋に足を踏み入れると、相変わらずの力の抜けた姿が目に入った。


「私は一体いつから大将殿の婚約者になったのでしょうか。」


「だって、こうでもしなきゃ信じてくれないでしょ?」


拗ねたように口を尖らせる仕草は、可愛い女の子がするとときめくが、目の前の長身の大将がすると全く可愛くない。


「本当に本気だったんですか...。」


冗談のように軽い口調で放たれる「好き」や「可愛い」「結婚しない?」の言葉たち。
ずっとどう受け取っていいのか悩んでいたそれらは、本気で投げかけられていたらしい。

私の知らないうちに、進んでいた婚約話。
良い年をして未だ独身のクザン大将を心配していた元帥や、ガープ中将は大乗り気で賛成したらしい。
とはいえ、おつるさんや私の父を含む私サイドには何も話が伝わっていない。
まずは外堀から固めようとしたのだろう。

…質の悪い確信犯だ。


「ずっと冗談だと思ってました。」


小さく溜息を吐くと、カタリ、とクザン大将が立ち上がった。
長い足は、あっという間に距離を縮める。
近くで見ると、やはり背の高い人だなぁ、と思う。
長い手が伸びて、私の顎をすくう。
視線がかち合った。


ちゃん、優秀だけど無神経なとこあるよねぇ。兎に角、俺は本気だよ。だから、こうやって多少卑怯な手も使う。」


部屋の空気が一気に冷たくなる。
クザン大将は本気だった。
怖いくらいに真剣な瞳に射ぬかれる。

しかし、怯むわけにはいかない。
萎縮して縮まってしまった舌を必死に動かす。


「私、これでも理想が高いんです。少なくとも、私よりも早く死にそうな人は嫌ですし、頼りない人も嫌です。その点、クザン大将は条件を満たしています。けど、別に好きじゃありません。だから、結婚なんてまだ考えられません。」


「...はっきり言ってくれるね。俺でも傷付くんだけど。」


決して目を逸らさずにきちんと意見を述べると、クザン大将は傷ついた瞳で渇いた笑いを漏らした。
小さく溜息を吐いて、引っ込められようとした手を掴んで引き止める。


「そうです。何せ私は無神経なので。この際、言わせて貰います。なんなんですか。いきなり『好きだ』『結婚してくれ』って軽く言われたら誰でも信用しませんよ。ホストですか。言っておきますけど、これでも悩んだんですからね。クザン大将の発言の意図が一体どこにあるのかわからなくて、色々と疑いました。それで、もう無視することに決めたんです。無神経だ、って言いますけど、クザン大将のせいですからね。」


ずっと心に溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、言葉をぶつける。
けれど、こんなに悩んで苦しんだのは、相手が目の前の彼だから。
最後に、目を見て本音でぶつかる。


「それでも、もし無神経な私でも構わない、と思ってくださるのなら、順番を守って、まずは私とお付き合いしてください。いきなり周りから固めるのではなく、ちゃんと私自身と向き合ってください。」


「…参った。俺が悪かったよ。」


クザン大将は頭を掻くと、もはやトレードマークとなっているアイマスクを外して、机に置いた。
そうして、そのまま跪いて私の手を取る。


「改めて、言う。ちゃん、俺と付き合ってくれ。」


笑ってしまうような、キザな仕草。
それでも、私はそこに彼の誠意を見た。


「はい。ゆっくり、よろしくお願いします。」


そう言って、差し出された手に応える。
大きな手が、私の右手を包み込む。


「手始めに今夜、ディナーに誘いたいんだけど。」


「私、美味しいお魚が食べたいです。」


そう返事を返すと、クザン大将は私の手の甲にひとつ、くちづけを落として満足そうに微笑んだ。






Reflection


もしもREPLAYのヒロインが別作品に飛ばされていたら…。
ということで、今回はONEPIECE。
まさかのおつるさんの身内です。

青雉さん、大好きです。
恋愛には不器用だと、可愛らしいと思います。
彼くらいの大人の男なら、キザな仕草もむしろ愛嬌があると思う。



REPLAY
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