2011冬リク企画





004/生意気レッド、不機嫌パープル。


2011.Winter
















「ケンヤー!でんわー!はよー!」

「でんわー?誰からや?」

「ユーシくんからー!」

「…またか。」




◇◇◇◇◇



「で、大阪に来るんは別にええ。それはお前の勝手や。」

「当然や。俺の故郷やからな。」

「納得いかへんのは、お前が四天宝寺まで当然の顔をしてついて来よることや!」


関西の強豪、四天宝寺中学校テニス部の部員たちは長期休暇中であろうと自主練習を怠らない。
コートにはいつものメンバーが揃っており、通常の練習時と変わらない風景が広がっていた。

…約一名、アイスブルーのジャージが混ざっていることを除いては。


「部長。」

「ん?なんや財前。」

「あれ、誰ッスか?ケンヤくんと一緒におるの。」

「さぁ。俺もまだ紹介してもらってないからわからんけど、あのジャージは…」


完全に周りが見えていない謙也と客人。
どうやら、部長である白石にさえ、まだ何の説明も無いらしい。
しかし、客人の着ているジャージは何度か全国大会で目にしたことのあるもので。
白石は自分の推測を後輩に伝えようとしたのだが…


「氷帝の忍足侑士くんよー!!」


「ちょ、うるさいです。耳元で叫ばんとってください!」

「さすが小春やな。情報通や。」


耳元大絶叫の被害を受けた光のことなどお構いなしに、ハートマークを飛ばしながらしゃべる四天宝寺の乙女系男子、金色小春は情報収集にも余念がない。
…容姿によって調査対象の選手を選り好みするという欠点はあるが。


「…忍足、ユーシ?」

「確か、ケンヤのイトコやゆーてたな。」

「…ふーん。あれが。」



後に白石は語る。

『後になって思い返してみれば、間違いなくあの時から火蓋は切って落とされていた。』

と。


◇◇◇◇◇


その後きちんと部長と顧問の許可(オサムちゃんは、基本的に面白ければなんでもアリな人だ。)を、得て久々の従弟とのラリーを楽しんでたのだが。


「なぁ、ケンヤ。」

「…あー。俺は何も知らんでー。さぁ、もう一球行こか!」

「…誤魔化すん下手くそか。」


謙也としては、出来ればそっとしておきたかった。
しかしそうは問屋が卸さない。
先ほどから自分も痛いくらいに視線を感じる。
それも、温度で言うと絶対零度を通り越してもはやツンドラ。


「…もぉえぇわ。直接相手して来る。ケンヤは気の利いたボケでも考えとり。」

「なんでボケなあかんねん!…て、ちゃう!おいこらユーシ!」


侑士は、先ほどから冷たい視線を送り続けている人間を、観察してみた。
傲岸不遜な態度、左右の耳にはピアス。
目が合っても怯むこと無く視線を送り続けてくる豪胆さは評価したい。



しかし、気に入らない。



氷帝学園テニス部は、ああ見えて上下関係に厳しい。
あの俺様何様跡部様ですら、目上の人間には敬意を払う。
それが例え無駄に年齢を重ねただけの、尊敬できない人物であったとしても、形式上の礼儀は欠かさない。
勿論、それは部員たちにも言えることで、強気の姿勢や上から目線な態度はとるものの、最低限のスポーツマンシップに則ったマナーは皆、守るよう指導されている。

つまるところ、忍足侑士は割と腹が立っていた。

つかつかと視線の主に歩み寄る。


「さっきから、えらい熱い視線感じるんやけど。コートに『入らしてもらえてへん』とこ見ると、まだレギュラーでは無いんやろ?ケンヤの後輩なら俺の後輩みたいなもんやし、『特別に』相手したってもええけど?」


先ほどまでの視線は、十中八九、外部から来た人間への威嚇と宣戦布告だろう。
弱い人間ほど、相手の実力を見誤って、身の程知らずなケンカを売る。
入学当初、跡部に試合を挑んだ上級生たちもそうだった。
素直に挑戦を受けてやって、こてんぱんに叩きのめしてやったほうが、ためになる。
不愉快な視線を注がれたのだ。少しくらい、灸を据えてやっても構うまい。


「勿論、ハンデも付けたるで?」


口元だけで笑って、煽る。

…しかし。




「結構ッス。興味無いんで。」




「なッ!?」



返ってきた言葉は予想外なもので。



「別に試合してほしかったわけとちゃいます。ただ、見とっただけッスわ。」


「あんなに睨んどいてよー言うわ。怖気付いたんとちゃうか?」


「睨んでるつもりは無かったんッスけど。」



飄々とした態度を崩さない。
口から出るのはあくまで敬語。
しかし含むのは毒と棘。
氷のように冷たい表情に、口元だけに浮かぶ笑み。



「ああ…。目付き悪いんは生まれつきッスわ。気に障ったんなら謝りますわ。えらいすんませんでした。」


「…こっちこそ、客の分際で年下相手に大人げなかったわ。」


「いいえ。気にしてないんで。」


「貴重な練習時間、削らせて悪かったな。頑張って上に上がって来ーや。」



勿論、練習などせずにベンチに座っていたのは承知の上での発言。
侑士は能面のような表情を崩さず、返す言葉は皮肉に満ちていて実に冷ややかであった。



途端、光の纏う雰囲気が急激に重くなる。



「あの、なんか勘違いしてはるみたいッスね。」


『まずい、スイッチが入ってしもた。』
光の性格がわかってきた、白石、小春をはじめとする四天宝寺テニス部レギュラー陣は、一斉に『やってもた』という顔をした。



「こう見えても俺、一応レギュラーなんスわ。まぁ、知ってはらへんのもしゃーないッスわ。全国大会ではすぐに対戦の可能性が無くなってしまいましたし、ね。」


「ちょ、光…!」


事態のあまりの険悪さに、流石に傍観者を決め込んでいられなくなった謙也が止めに入る。

が、時すでに遅し。


「今年こそ、せめてベスト4では会えるように、頑張って上がって来て下さいね。」


少々強引に訳すと、「全国大会『出場』の氷帝学園とベスト4で王者立海に敗れた『実質準優勝』の四天宝寺では、格が違うねんアホ。」



場の空気は一気にブリザード状態。
いつもは陽気な四天宝寺メンバーでも流石にどうすることもできず、ただ見守るしかない。






つまるところ。

この二人、相性最悪。








◇◇◇◇◇



「…あー。ユーシ、なんや、えーと。その…堪忍な?」


「…なんでケンヤが謝んねん。」


氷河期到来かと思われた魔のテニスコートからの帰路。
相変わらず能面のような表情の従兄の機嫌は一向に回復せず、「心を閉ざす」という性質がむしろ一層謙也に恐怖を抱かせた。
傍からは無表情に見える時ほど、この従兄殿は腹の奥底に怒りを溜めている。
現に今だって、口調や表情には現れないものの、その言葉はいつも以上に冷たい。


「いや、でも、あの…。えーっとな、ユーシ。」


「…はぁ。なんやねん。言いたいことがあるんなら、はっきり言ってみーや。」


今回の光の態度の悪さの理由には一部、謙也には思い当たるところが無いわけでも無いのだ。
むしろ、きっかけは自分がつくったと、謙也は思っている。
…実際は、もっと他の理由が絡んでいるのだが。


「ユーシの第一印象悪かったんは、俺のせいやねん…。」


「はぁ?」


「男らしないから、ハッキリ言うとな、テニス部のメンバーには普段からようユーシの話するんやん、か…。」


「…ほー。つまりあれか。部活仲間にこっそり俺の悪口言うてたんか。」



道理で四天宝寺のテニス部員からの対応が総じて微妙だったわけだ。



「すまん…。…でな、財前、あー。今日、ユーシと言い合ったヤツ、あいつに一番愚痴る機会が多かってんやんか…。」


一晩かけて愚痴った。
あんなことやこんなことまで、全て。

…実は光が謙也の愚痴を聞きたがったのは、従姉への過保護なまでの心配が根源にあるのだが、謙也はそれを知らない。



「…なんやあいつ、謙也のこと好きなんか?」


「なっ!?アホかユーシ!きっしょいこと言うなや!」


「…何を想像したんか知らへんけど、お前のほうがきしょいわ。」


謙也は自分と違って面倒見の良いところがあるから、後輩には好かれるだろう、と侑士は思った。
先輩を慕うがゆえの行動だった、と言われて見ればあの毒舌も可愛いものだと思える…



わけがない。



「まぁ、俺からしたら、『せやから何なん?』って感じやわ。」



『気に入らないヤツ』であることに、変わりはないのだ。





◇◇◇◇◇




唐突に着信音がなって、携帯を取り上げる。


「ひかる…?いきなり電話かけてくるなんて。…珍し。」


基本的に毎日、連絡をとりあってはいるものの、メールでのやり取りがほとんど。
たまに声が聞きたくなっても、事前にメールでアポをとってからかけてくるのに。
…いきなり着信とは、何かあったのだろうか。
通話ボタンを押しながら読みかけの本に栞を挟む。


「もしもし、ひかる?」


『あー。ごめん、いきなり電話して。いま、大丈夫やったか?』


「うん。寝る前に本、読んどっただけやから、平気。…なんかあったん?」


いつもよりも、声に元気が無いような気がする。
饒舌な光にしては、心なしか歯切れも悪い。


『…まぁ、な。でも言わん。』


「なにそれ。教えてくれへんくせに、電話してきたん?」


きっと何か嫌な事でもあったのだろう。
けれども、無理に聞き出すのは本意じゃない。
言いたくないなら、言わなくても構わないよ、そう伝えようとした時。



「イライラしたから、の声が聞きたなった。」



「…っ!…ときめく台詞を、ありがとう。」


それは、あまりにも不意打ち過ぎて。
茶化しても動揺が悟られてしまったはずだ。
…頬が熱い。


『…っははっ!ときめいたんか?なんなら、もっかい言ったってもええで?』


「…同じセリフ二回は芸が無いから、アカンで?」


余裕で笑う光が憎たらしいので、ハードルを上げてやる。
さて、どう出るか。
わくわくしながら、音を上げるのを待っていると。




の声、聞くと安心する。せやからメールやなくて、電話したなった。』





普段は全くそんなこと言ってくれない、生意気な従弟のくせに、電話で急にこんなことを言われてしまったら、


「…ずるい。」


『…っはは!ずるいってなんやねん。まぁ、今日は特別や。』


「しょっちゅう、言ってくれてもええけど?」


『…あほ。そんなやっすい男とちゃうわ。』


「…っふふ!せやね、将来有望やわ。」



本当に、妬けてしまうほど、将来有望だ。
歳を重ねるごとに、心臓への負担が大きくなっていく。
いつか可愛い従弟に殺されてしまうのではないだろうか、と半ば本気で考える。



『…まぁ、そういうわけで、お騒がせしました。』


「ん。お役に立てて、良い物まで聞かせてもらって、役得でした。」


『遅くにごめんな。…じゃ、おやすみ。』


「おやすみ。」



どうか、光が明日はすっきりとした気分で目覚められますように。
祈るように、携帯を閉じた。





◇◇◇◇◇






電話を切って、ベッドに倒れこむ。


「…ほんま、敵わへんな。」


最後までは電話の理由を聞かなかった。
昔から、いつもそうだ。
踏み込んで欲しくない、守りたいところは尊重して、ただただ受け止めてくれる。


「…まだまだアカンわ。」


を支えられるようになりたい、と思っていた矢先にこれだ。
返しても、返しても、返し切れないほどのものを貰っている。
良くも悪くも依存性が高くて、一度知ってしまったら、もう。



「ほんま、変な輩に好かれてへんやろな。」



見え隠れする嫉妬心は、純粋な心配だと言い聞かせて気付かなかった振りをする。
















【Reflection】

冬リク企画、第四弾!
忍足が四天宝寺にやって来たら(ヒロイン不在・光VS忍足)編でした。

光と忍足(侑士)の毒舌対決!
書いていてとても楽しかったです。
間に挟まれた謙也くんが気の毒ですね。
そして忍足がとっても嫌なやつだ!笑
やはり私は忍足一族はとことん虐めるのが好きなようです。


今回は、視点がコロコロ変わったので、読みづらくなってしまったのでは…と戦々恐々ですが…。
いかがでしょうか?
もし、リクエストと違う!というようなことがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね◎


素敵なリクエスト、ありがとうございました!


※十円ハゲの黒猫さまへのお礼と簡単なあとがきはブログの方に。