こちらの世界では大阪人はとことんお笑い至上主義な性質を持ち合わせている、というのは四天宝寺に入学した時点で気付いていた。
身近にお笑い大好きなラブルスがいるし、教師も面白ければ多少のことには目を瞑るという独特の校風は嫌いじゃない。
けれどそれらは一歩引いたところから見ていられる状況だったからこそ、言えることでありまして。
「今年から冬の新企画、男女ペア漫才大会が開催されることになったから、ペア決めときや!」
「えー!それって全員参加なん?面倒やし、嫌やわ!」
「学年ごとに予選した後、全校で競うんや。その分、テスト科目は減るんやけどなー。」
「「「ほんまに?」」」
「せや。その上、今年の大会の盛り上がり具合によっては来年もあるで?来年もテストなくなるで?」
「「「よっしゃー!」」」
「やったるわ!」
「はよペア決めて練習しよ!」
…なんてこったい。
◇◇◇◇◇
唐突に、全校生徒参加の男女ペア漫才大会なるものの開催が伝えられた、そのすぐ後の休み時間。
みんながペア決めに四苦八苦しているその時、私も例に漏れずペア決めに困っていた。
別の意味で。
「ユウジには小春がおるやろ!」
「うるさい!小春は男子枠や、って言われてしもたんや!そもそも謙也は隣のクラスやろ!自分のクラスで相方探せばえーやろ!」
「クラスでペア組めとは言われてへんやろ!学年対抗やから同じ学年の女子なら誰でもええねん!オサムちゃんに確認とったから間違いない!」
「オサムちゃんの言うことなんか信用できへんわ!さっさと自分のクラスに帰れ!は俺と組むんや!」
「小春が駄目ならと、なんてムシが良すぎるわ!俺は第一希望からって決めとったんや!第二希望のユウジは大人しく身を引いてもらう!」
「ちゃんモテモテねー!妬けちゃうわ。」
「…全然嬉しないわ。出来ることなら代わってあげたい。」
どちらが私とペアを組むかで先程から子どもっぽい言い合いをしている謙也とユウジに途方にくれていると、さっさとペアを決めた小春ちゃんが戻ってきた。
なんでも、ギター部の女の子と組んでギター漫談をするらしい。
「そもそも、二人とも引く手数多なんやから、組もうって誘ってくれてる女の子と素直に組めばええのに。」
ユウジは人見知りだし、謙也は女の子が苦手。
だから付き合いやすい、面倒でない女子として私が抜擢されたのだということは想像に難くない。
ユウジはきっと相方の女の子と打ち解ける前に大会当日を迎えてしまうのが目に見えている。
一方謙也は女の子のペースに苛々させられてストレスを溜めるだろう。さらに悪い場合は喧嘩に発展して相方とこじれる。
どちらも心配と言えば心配だけれども、いつまでも私が面倒を見ていられるわけもないので、ここは自立してもらう良い機会だと思っているのだけれども。
「わかってないわねー。ちゃんがいいから、二人とも争ってるんでしょ!ほら、早くあの台詞を今こそ言う時やで!」
「あの台詞?」
「…しゃーないな。アタシがお手本見せたるわ!」
なぜか小春ちゃんはノリノリ。
でもまぁ、あの不毛な言い争いに終止符を打ってくれるなら良いか、と見守っていると、
「二人とも、アタシのために争わないでーーーーっ!」
…場をややこしくしただけだった。
「小石川くん。」
「ん?なんや?」
「君を私の相方、ツッコミに任命する。」
「お…おう。ありがたく拝命させていただきます。」
なかなか終わりの見えない言い争いに見切りをつけて、身近な小石川くんとペア成立。
しかし、やはり不満が出ないわけはなく。
「「なんで、よりによって小石川やねん!!」」
「なっ…!お前らよりによってとはどういう意味や!」
「小石川は地味やって言いたいんや!」
「せや!地味や!絶対負けるわ!」
「いつも地味や地味や言いよって!俺かてヘコむんやからな!」
◇◇◇◇◇
あれから、ペア決め騒動はなんとか収束させた。
しかし小石川くんに連絡先を聞くのを忘れていた事に気づいて、やってきたテニスコート。
ユウジの方は、次のグループ研究は小春ちゃんと私の三人で組むことを約束して、昼休みの内に渋々ながら納得させていたのだけれど、問題は謙也の方。
「…ごめんってば。」
「…はいっつもユウジには甘い。先に仲良うなったんは俺の方やったのに。」
わかりやすく拗ねる姿は可愛らしいが、先ほどからかれこれ10分ほど責められているわけでして。
どうやってご機嫌をとろうか、と悩んでいると。
「謙也くん女々しいッスわ。」
「うっさいな!財前には関係ないやろ!」
「…そーっスね。従弟でちっさい頃からと一緒にいる俺が関係ないなら、謙也くんや一氏さんは関係ないどころか迷惑ッスね。」
「な…っ!」
我が従弟ながら相変わらず凄まじい切れ味の毒舌。
ここは助けてくれる光に甘えて、逃亡してしまうことにする。
ありがとう、光!今度、何かお礼をします。
謙也の機嫌をとる方法も、考えておかなければ。
…とりあえず、今日は逃げるに限る。
「さっきからネチネチとしつこいんッスわ。もう面倒なんでに関わらんとって下さい。」
「お前の方が女々しいやろ!いつまでも従姉に甘えて!」
「勘違いせんとって下さい。俺がに甘えとるんちゃいます。面倒を見たってるんです。」
「そんなん、財前が勝手に言うてるだけやろ!」
「残念ながら、の両親からも頼まれてます。生まれた頃から家族ぐるみの付き合いなんで。」
「…ほんま腹立つやつやな!」
◇◇◇◇◇
「ちゃんは苦労するわねぇ。あれじゃ彼氏なんか絶対作れへんわ。」
「あんな小うるさい番犬みたいなんが三人もおったら、誰も近づけへんやろうな。」
「その点、ちゃんに頼まれて相方になった小石川くんは役得やなぁ。嬉しい?たまには運がめぐってくるんやねぇ、このこの!」
「おい!あんまりくっつくな!」
「なんなん!もう。小石川くんツレへんわー。」
「ただでさえ漫才の件で恨み買ったのに、その上お前にまでくっつかれると後で一氏が面倒や!」
現に、先程のミニゲームでは何球か確実に悪意のあるボールを食らった。
未だ痛む腰をさすりながら、ふとコート内に眼を向けると噂の彼女に近寄る影。
「…ねぇ。それにしてもやはり流石といわざるを得ないわね。」
「せやな…。ほんま、白石は無駄のない男やな。」
「光ちゃん、気付いてないみたいね。言ってあげたほうがいいのかしら?」
謙也をあしらってる間に一番の危険人物が大事な従弟と連絡先を交換してんで、と。
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【Reflection】
冬リク企画、第ニ弾!
ヒロインがそのまま四天宝寺に入学していたら…編でした。
一年生の頃、ケンヤくんと同じクラスで一番初めに仲良くなったという設定がこっそりあります。
現在はラブルスの二人と同じクラス。
四天宝寺では、目立たず生きようとしても絶対に無理です。
氷帝ほどテニス部ファン云々がひどくないので、ヒロインも諦めています。
その分、光くんは大変です。
ヒロインの後を追うような形で四天宝寺に入学するまでの一年間は気が気でなかったと思います。
(その分、自分の知らないヒロインの一年間を知っているケンヤくんには冷たい。)
そしてやっぱり抜け目のない白石。
書いていてとても楽しかったです!
素敵なリクエスト、ありがとうございました!
※セシルさまへのお礼と簡単なあとがきはブログの方に。